「カムクラ君、今は劇やってるんだよね。見に行きたかったな」 今日は夏祭りの日。合宿が始まってちょうど半分、折返しだ。 私はそこで、ウサミと一緒に貝殻のアクセサリーを売っている。ウサミが拾ったきれいな貝殻を、私がアクセサリーとして加工して、お店で売ることにしたのだ。 何のお店を開くか迷っていたところ、ウサミが、拾ったきれいな貝殻をみんなに配りたいと言っていたので、私からこの店の案を持ちかけたのだ。あまりものづくりはする方じゃないけれど、なんとか売り物になりそうなものを作れるようになったのは、嬉しかった。 才能に関係ないことをあえてする、という課題を与えられた祭りだけど。私のように才能のない人はこのように、単に普段やらないことをやってみる企画になっている。 ……それなら、カムクラ君はどうなのだろう。彼にとっては、何をしても才能に関係あることになると思うのだけど。 どちらにせよ、彼が劇をやる場面は、見てみたかった。どうしても劇の時間と私がお店を出す時間が被ってしまい、見に行けなかったのだ。 せめて、劇が終わった後のカムクラ君が、お店に来てくれると嬉しいけど。でも、特に約束はしていないので、来てくれないかもしれない。そんな悶々とした気持ちになりながら、ウサミと共に店番をしていた――その時。 「あれ、カムクラ君、来てくれたの!?」 「……ええ、まあ。時間もあるので」 祭りが終わる間際、長い髪をたなびかせながら彼がやってきた。ただの気まぐれかもしれないけど、来てくれたという事実が、どうしても嬉しかった。 「ねえ、このアクセサリー貰っていかない? ウサミがきれいな貝殻を拾って、私がアクセサリーに加工したの。ほら、このネックレスとかどう?」 思わず声を弾ませながら、私は彼に私の作った商品を見せる。 カムクラ君は、アクセサリーを受け取って、じっとそれを見つめた。その何気ない姿が絵になって、少しドキドキしてしまう。 そして。 「では、一つ買います」 「えっ!? そんな、お金なんていいのに」 「あなたは、売り物としてそれを売っているのでしょう? なら、僕がそれを受け取るのなら、金銭を払わない意味がありません」 「えっと、そうじゃなくて……私からの、プレゼントってことで。その、感謝の気持ちと、あなたが好きってことを伝えたい気持ちで。もうひとつ、おまけするよ。……受け取ってくれる?」 「……そういうことなら、貰います」 そしてカムクラ君は、私の作ったアクセサリーを手にとってくれた。 それが嬉しくて、胸が高鳴った。 「てへへ。カムクラ君、苗字さんと仲良しさんなんでちゅね。カムクラ君が、あちしの拾った貝殻で、苗字さんが作ったアクセサリーを買ってくれて嬉しいでちゅ!」 「……別に。彼女が付き合ってほしいと言ったので、それに付き合っているだけです」 微笑ましそうな瞳でぬいぐるみの先生に見守られて、なんだか恥ずかしくなってきた。カムクラ君は相変わらずの無表情だったけど、私は少し、照れ笑いをした。 「……カムクラ君、私と付き合ってることで、少しでも楽しんでくれているといいな」 彼がそこを去ってから、私は思わずひとりごちた。 私は、彼と付き合えて本当に楽しい。自分にとっての希望が何なのかはまだわからないけど、でも、彼と一緒にいる時間が増えたことがきっかけで、何かが見えてきた気がする。 だけど――彼にとっては、どうなんだろう。 時々、こうやって不安な気持ちになってしまう。この時間が、彼にとっても本当に良いものになっているのだろうか、と。 「……あちしには、カムクラ君の気持ちが全部わかるわけではありまちぇん。でも、少なくとも、カムクラ君も苗字さんに心を開いてくれていると思いまちゅよ。らーぶ、らーぶ」 「そう、なのかな」 微笑みながら私に声をかけてくれる、うさぎの先生。彼女の言葉を聞いて、少し考え直してみる。 つれないと思っていたカムクラ君だけど、もしかしたら、少しずつ私のことを好きになってくれているのかもしれない。 そんなはずはない、そんなはずはないんだけど。 「……でも、そうだったらいいな」 らーぶ、らーぶ。せめて、私の気持ちが伝わっていますようにと、そう願った。
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