南国合宿が始まって、一週間と少し。一ヶ月半もある長い合宿だと思っていたけれど、みんなと海で遊んでみたり、図書館にある本を読んでみたりで、気がついたらあっという間に時間が過ぎてしまいそうだった。 それにしても。まさか私が、予備学科生として、本科の行事に参加する日が来るなんて思っていなかった。どうやら私は、予備学科生でありながら本科生と仲良くなったことを評価され、彼らと「普段交流しない人と交流させ、新たな可能性を探らせる」ために呼ばれたらしい。 「私の、新たな可能性……」 超高校級のみんなに刺激を与え、彼らの才能を伸ばす。この合宿に私が呼ばれた理由がそれでしかないことは、わかっている。 そして私は、みんなみたいに才能があるわけではない。私はたまたま彼らと仲良くなって、たまたま選ばれた、ただの一般人。 それでも――この私も、みんなと同じく、新たな可能性を探ることが課題になっている。 私の可能性って、何なんだろう。 私は、どうしたいのだろう。 その時、ふと頭に思い浮かんだのは、カムクラ君の姿だった。 私と交流の多い、七海さんや狛枝君たちのクラスの中でも、特に浮いている人。曰く、彼の才能は「超高校級の希望」と呼ばれているらしい。 彼のことを、最初は、なんだか変な人だと思っていたくらいだった。 だけど、なんとなく気になってきて、話しかけていくうちに。――いつの間にか、好きになってしまっていた。 何を話しかけても、つれない彼。彼の笑顔を見てみたくて、ほんの少しでも心を動かしてみたいと思って。そうして、色々と話かけていくうちに、どんどん惹かれていった。 だけど私は、今の今まで、見ないふりをしてきていた。彼にとって私はつまらない人でしかないのだろうと、この想いは一方通行にしかならないのだと――自分の気持ちに、蓋をしてきた。 それでも。今回の合宿の目的は、いつもと違う方法で自分の可能性を探るということなのだ。だから、いつもは押さえつけていたこの気持ちを伝えてみる、いい機会なのではないか。 それにこれは、最後の学校行事だから。この機会を逃せば、二度とカムクラ君と会うこともないのかもしれない。このままお別れなんて、嫌だった。だから私は、意を決して立ち上がった。 彼に、自分の心を伝えるために。 「ねえ、カムクラ君」 「何ですか」 カムクラ君を探して、第二の島のビーチを覗いてみたら、そこに彼は居た。今は、彼と私の他には、誰もいないようだ。 一人で静かに過ごしたかったのだろうか。それは悪いことをしたかも。 一瞬だけそう思ったが、気を取り直して彼に声をかけた。 「……何ですかって言ってるけどさ。カムクラ君、私が何を言いたいのか、私が何を考えているのか……わかってるよね?」 「ええ、まあ。あなたの心情、細かな揺れ動き。今からあなたが何を言おうとしているのかも、僕には予測できています」 彼は無表情のまま、淡々と言葉を続ける。そんな彼の様子に思わず怯みそうになったけれど、それでも私は、改めて姿勢を正した。 今から告げる、一世一代の告白のために。 「……そっか。私の気持ちを知られながら言うの、恥ずかしいな。……でも、言います」 一呼吸。私は、意を決してその言葉をぶつけた。 「カムクラ君、好きです。私と付き合ってくれませんか?」 言った。言ってしまった。 息が上がる。ドキドキが止まらない。それでも、なんとか呼吸を整えて言葉を続ける。 私の気持ちを、どうしても伝えたかったから。 「カムクラ君は、私の事なんて、全部予想できるつまらない人だと思ってるのかもしれないけど。私はそれでも、カムクラ君と一緒に過ごしてみたいって思った」 ずっと、好きだった。 だけど、彼のことを知る度に、自分の気持ちは押さえつけなければいけないと考えるようになった。私と彼とは釣り合わない、彼が私のことだけを見てくれることなんてありえないと、そう思っていたから。 だけど。 「私は――カムクラ君と一緒なら、新たな可能性っていうのも、見つけられる気がする」 カムクラ君にとっては、私はつまらない人なのかもしれないけど。 でも、いつもと違うこの合宿なら、もしかしたら。 そんな想いを込めて、私はまっすぐ彼のことを見つめる。 表情を変えない彼の返事を、死刑執行を待つ罪人のような気持ちで待ちながら。 「いいでしょう。この合宿の期間、僕はあなたと交際します」 数時間にも感じる数秒の後、彼は至って簡潔に呟いた。その言葉が一瞬信じられなくて、思わず言葉を失ってしまう。 「……えっ!? い、いいの?」 彼の言葉を脳内で噛み砕き、思わず驚きの声が漏れてしまった。 カムクラ君が本当に承諾してくれるとは、思っていなかった――そうやって放心している私には構わずに、彼は言葉を続ける。 「……僕は、あなたのことは、好きでも嫌いでもありません。あなたと交際したところで、予想できない未来が掴めることも、ないのだろうと予想しています」 彼の表情は相変わらず変わらないままで、彼が何を考えているのか、それは私にはわからない。 それでも、その言葉はおそらく彼にとっての事実なのだろうとは、漠然と感じられた。 彼は、私と交際すると宣言した。ただしそれは、彼が私に好意を抱いているからではなく、ただの気まぐれのようなものでしかないのだと―― 「希望ヶ峰学園が、僕に提出することを求めている『希望のカケラ』について、考えることは簡単なことです。……ですが、『今までと違うことをする』ということが、万が一にも僕の予想できない未来に繋がるかもしれません。予想通りの課題の答えよりも、僕は、予想できないかもしれない未来に賭けてみることにします」 「……それが、私?」 「ええ、まあ」 今までやったことがなかったこと。それが、彼にとっての、私という存在。カムクラ君は私と付き合うことで、何か面白いことが起こるかもしれないと、一縷の望みを賭けてくれた。 私は、気まぐれのようなものとはいえ、彼に選ばれた。 カムクラ君は、私を選んでくれた。それは、紛れもない事実だった。 それが、どうしてもどうしても嬉しくて、私は声を弾ませた。 「ありがとう、カムクラ君。じゃあ、私は私なりに頑張ってみるね!」 彼はその言葉に、そうですか、とだけ呟いた。そして。 「期待はしていませんが――これが、お互いの課題の答えに繋がるといいですね」 彼は相変わらずの無表情のまま、本当にそう思っているかどうかわからない淡々とした調子で、私に告げた。 これが私達の、少し不思議な交際の始まりだった。
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