石仮面。 そんなものがなければ、私たちは出遭う事すらなかった。 私がこんな思いをする必要も、全く。 「ディオ」 私を日の元へ出すことを許されない体にした男は、まだ帰ってこない。 ほんの気まぐれ。 多分、あの吸血鬼はほんの気まぐれで私を生かしておいて、私を吸血鬼にしたのだ。 きっと、食事のために連れてこられた、なんてことわからず呆然とするだけだった私の、本当の本質を見抜いていたのだ。 私が、忠誠を誓った者には、どこまでも忠実に、それでいてどこまでも結果を与えるということに。 「やあ、お目覚めかい? 美しいお嬢さん」 ここはどこだろう、と前後の記憶が全く思い出せなかった私に、男はこう言った。 この世の誰よりも美しい、とすら表現出来そうな男。紅の瞳。金色に輝く髪は闇に溺れ、色気の漂う唇の中には鋭い牙、ふたつ。 そんな口から漏れ出す、心地よい低音が胸に響いた。『美しさ』の塊とも表現できそうな男が、私なんかのことを『美しいお嬢さん』と表現するのは、些か滑稽ですらある。私などと比較することすらおぞましい程、陳腐な言葉だが男は『美しかった』。 「……」 私は何も言うことができなかった。男の美しい顔に魅入られるだけで。男は鼻歌でも歌い出してしまいそうな雰囲気で、機嫌良さげに私を見下ろした。 「……そうだな、お嬢さん。 ひとつ選択してくれないだろうか? 今の若さのまま、永遠の若さと美しさを手に入れよう、とは思わないかい? このディオと共に、世界を永遠に過ごすのだ」 「……ディオ」 低音が心に響くも、殆ど聞いていないも同然であった。この人の名前は『ディオ』。どこかで聞いたことがある……その意味は、確か、イタリア語で『神』。 「勿論、このディオは押し付けたりはしないがね。君自身が選択するのだよ……。花は枯れゆく。そして散る。その悲しい結末を選びたい、と言うのなら、その意思を尊重しようじゃあないか」 「……『君』でもないし『お嬢さん』でも、ない、です。私は『ナマエ』です」 私がどうしてこう言ったのか、それはわからない。だが、その言葉は神の気分をいささか愉快にさせたらしい。 『ディオ』はクツクツ肩を揺らすと、機嫌良く語りかけた。 「ンッン~。オーケーオーケー! 失礼したよ、……『ナマエ』」 神が私の名を呼んだ時、私の身体に電流が流れた。身体に軽い痺れが走る。自分の口許に、歓喜の笑みが自然と浮かんだことを感じた。 「ではナマエ。もう一度言おう。……このディオと、永遠を過ごさないか? このディオに、永遠に仕えないか?」 私は何も考えず頷いた。降臨された神に仕えることは、人間にとって当然のことであり、光栄なことだ。 「ディオ、」 君はここにいるんだ、オレはオレにとっての宿敵を倒してくる。 私が『吸血鬼』となり、彼と共に過ごすことを決意してその次の日、彼はそう言って姿を消した。 私は待った。待って、待って、待った。 「私も行きます」 そう言っても、彼は愉快そうに笑うだけで許可してくれなかった。 彼が私に言ったこと。 「ナマエ、お前はこのディオに永遠に仕えるのだ。下手に連れていって、倒されても困る。いいか、ナマエ。お前はこのディオをただ待ってさえくれればいいんだよ」 彼が言葉を投げ掛けるたびに私の脳は麻痺し、ただ恍惚と頷くしかなかったのだった。 嗚呼、ディオ、ディオ。 あなたがそう言うのなら、私はいつまでも待ちます。 嗚呼、私の神様。 いつまでも待ちます。けれど、なるべく早く帰ってきて。 嗚呼、私の、ディオ。 こんなに待たせるなんて、悪い神様ですね。早く帰ってきて、その美しい姿を私に見せて。 嗚呼、神様。神様。 私はもう何年待ったかわかりません。千年か、十年か、百年か。待ちますから、絶対に帰ってきて。 「あなたのことを愛しています。だから、帰ってきて。早く帰ってこないと、死んでしまうわ」 嗚呼、私の神様。今、どこにいるの。 ・To be continued...... 永遠とわたし(3部 DIO)
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