6.弾丸が切り開いた問いかけ

「よぉ、ナマエじゃねーか。おめーも昼休み中か?」  街のカフェテリアでコーヒーを飲みながら考えごとをしていると、聞き慣れた声に声をかけられた。  私は、自分でも気がついていないくらいぼんやりしていたらしく、一瞬声の相手のことを判別することができなかった。 「……ミスタ?」  私が呆然としながら返事をすると、ミスタは以前と変わらない調子で笑いかける。  だから私も、なんとなくつられて笑ったが――なんだか、『組織』に関係しない場でミスタに会ったのは、随分と久しぶりな気がした。  トップ――ジョルノの側近となったミスタとは、久しく個人的な話ができていなかった。  それでもミスタは、いつもの調子で私に笑いかけたのだ。少し嬉しそうに、どこか呆れたように。 「シケた顔してんなあ、ちゃんとメシ食ってんのかよォー? 昼休みはキチッと食事をとって休憩し、午後からの仕事に備える! この国で生きていくときの基本だぜー」 「ご飯は、ちゃんと食べてるけど」  思わず苦笑しながら、彼の質問から逃れるようにコーヒーを啜る。当たり前のように、苦みが私の舌の上に広がった。 「じゃあなんだ、何か悩み事でもあんのかよ」 「…………」  どう返事をしたものかとコーヒーを口に含み、喉元を通す。彼の言葉で私は、さっきまで考えていたことのことを思い返していた。 「後悔はないさ」  そうは言っていたけれど、本当に救われていたのか、私には未だにわからないブチャラティ。 「あの人に着いていこうと思ったんだ。オレは、ブチャラティの命令なら何も怖くない」  自身の意思で選択して、この道に入ったナランチャ。 「忘れちゃいけねえんだよ。……絶対にな」  何か重たい過去を背負うアバッキオ。  どうしようもないひとつの道を前にした彼らにとって――どこか遠くに行ってしまった彼らにとって――この結末は、本当に良いものだったのか? 「後悔はない……。こんな世界とはいえ、オレは自分の『信じられる道』を歩いていたい!」 「オレの落ちつけるところは……ブチャラティ、あんたといっしょのときだけだ」 「オレに『来るな』と命令しないでくれ――ッ! トリッシュはオレなんだッ! オレだ! トリッシュの腕のキズはオレのキズだ!」  あのときの、みんなが下した決断。そして、誰にも砕けない『覚悟』。   「あんたは現実を見ていない……理想だけでこの世界を生き抜くものはいない」 「君らは、君らが、正しかったとは思う。だがぼくには、そうするしかなかったんだ。ぼくにとっては……」  組織を裏切らない、ボートに乗らないという、彼にとってもどうしようもなかった決断を下したフーゴ。 「あたしも……乗り越えるわ……。『運命』にビクついて、逃げたりもしない……!」 「あたしはあたしなりに、幸せに生きていくつもりよ。だって、そうじゃないと――みんなに、顔向けできないものね!」  彼らに貰った命を受け継いでいく、絶対に壊れない意思を持ったトリッシュ。  そして――目の前にいるミスタと、黄金のような少年。彼らの顔が交互に入れ替わり、そして消えていく―― 「この結末はみんなにとって最善だったのかしらと、そう思っていて」  目の前にいるミスタの目を見ないまま、私はぽつりと呟く。ミスタは何を考えているのか、軽く相槌を打った。 「この結末、な」 「それとも、これが運命だ、っていうことかしらね」  そこまで口に出したところで、思わず苦笑する。我ながら、何を考えているのだろうか。  そんなこと考えたところで、ミスタに言ったところで、この答えなんて出るはずもないのに。  ところが、ミスタは――予想に反して、難しい顔をして考え込んだ。そして――ひとつ、気になることを言い出したのだ。 「……あのよー、ナマエ。えと、ちと聞いてみたいことがあるんだよ。その、なんつーか、単なる好奇心といえば、そうなんだけどよ。おめーがどういう答えを出すか、ちょっと気になって」 「え? なに?」  突然何を言い出すのだろう。私は首を傾げ、彼の言葉の続きを待つ。  すると、ミスタの言葉の続きは――かなり、突拍子もない発言だった。 「オレがブチャラティの運命を、変えたと思うか……?」 「……は?」  私は自分の言動も棚に上げて、ミスタの言葉を訝しむ。  ミスタは、そんな私に気づいているのかいないのか――さらに、不思議な言葉を私に投げかけた。 「もしよ、運命が決まっていて、それがあらかじめわかっていて、それを変えようとして――オレがそれを変えられたと思っていた、って言ったら信じるか?」 「どういう、意味」  呆気にとられながら彼に問いかけると、ミスタはとぎれとぎれ、こんなことを語りだした。  死、という、どうしようもない運命を形どる石のこと。その石が、近いうちに死ぬ運命になる者の姿になると、その者は死から逃れられないということ。 「それ……って、スタンド能力ってこと?」 「ああ、そうみたいだった……しかも、本体にもどうしようもない能力なんだって、言ってたぜ」  そしてミスタは続きを話し出す。石は近い未来に死なない者の姿にはならないため、死なないことが運命づけられた人間は、何をしようとどんな無茶をしようと、決して死ぬことがないこと。  そしてミスタは――ブチャラティの石を、破壊したはずだということ。そしてさらには、その石はアバッキオとナランチャの姿は、形作っていなかったはずだということ。  彼の言葉を聞いているうち――彼らの死に顔を思い出した。そしてそれが――知らないうちに、石像の姿のように変わっていく。  まるで最初から、その石が目の前に存在していたかのように。 「それ、どういうこと……?」  彼の言葉をなんとか咀嚼したけれど――それでもわけがわからず、私は逆に問いかけてしまう。  それでもミスタは、やはり首を振るだけだった。 「オレも、よくわからねーんだ。あんまり複雑に物事を考えるのはニガテでね。だから、ナマエ。オレは、おめーの意見を聞きたい。ナマエ、おまえ、どう思う――?」  この問いに対して、私は――

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