※グノ主の趣味と性格が最悪 ※暴力、胸糞、全体的にバイオレンス、人が死ぬ (やったね、ナマエ!) 嬉しそうに微笑むククルシカ。彼女の微笑みで、喜びの大きさがよく分かる。 そう、今回のグノーシアは私とククルシカの2人で、どちらも欠けずにグノーシア陣営が勝利できた。それ自体は私も嬉しいので、彼女が差し出した手に合わせ、ハイタッチ。 しかし、生き残りのメンバーをどうするか。 今回残った人間はセツと沙明の2人。なんとまあ究極の選択だと、私はこっそり苦笑いした。 白状しよう。私はグノーシアとして勝利すると、相当なイカレ女になる。 あるループでは人間として人間の勝利のため頭を悩ませ、あるループでは「なんで私はグノーシアの味方をしているんだ?」と思いながらAC主義者として貢献し、バグとなったときは半分諦めながら世界の崩壊のために動く。 そんな無数のループの中で、ほとんど唯一のストレス解消方法が――グノーシア汚染されたぐちゃぐちゃの精神の中で、自分の欲望を解き放ち、生き残った人間を制圧すること。 しかも今回残ったのは、沙明。数あるループの中で、私が好意を積み重ねてきた相手である。グノーシア汚染されたから仕方ないという免罪符を得ながらにして彼を好き勝手できる、絶好の機会だ。 ……しかし。私はセツにそんな姿を見られたくないと、そうも思っている。セツに見られて、今後のループであの子に嫌われるのは嫌だった。だから今までグノーシアになったときは、セツを優先的に消してきたのだが……今回のループでは、セツより優先して消すべき人が多くいたし、セツをコールドスリープに追い込むこともできなかった。 セツを先に消して沙明と遊ぶのはその後かなあ、でもそうしているうちにククルシカに沙明を取られちゃうかなあ。ククルシカはどうしたいんだろう。そう思っていたときだった。 (ナマエ、セツを消してくるね。沙明と、遊びたいんでしょう?) 「……いいの?」 いつもの無邪気な微笑みではなく、どこか艶めいた微笑みを浮かべるククルシカ。その提案をしてきたククルシカが、私には天使みたいに見えた。 (ナマエは、グノーシアの勝利のために頑張ってくれたから。そのお礼だよ) そしてククルシカはにっこり微笑む。その作り物じみた笑みが、私には酷く有難かった。 「……ありがとう!」 こちらこそ感謝だ。私は鼻歌交じりに、沙明の元へ向かうことにした。 ククルシカがそんな私の姿を静かに眺めていたことに、私が気付くことはなかった。 「沙明、元気?」 シピもしげみちももういない。そんな共同寝室をノックすると、この部屋の主は、気だるげに部屋から出てきた。 「いつものブザーは鳴ってない……よな? つーことは俺ら、助かったのか?」 おそらく、空間転移が終わったときにLeviの告げる『空間転移完了時にグノーシア反応を検出いたしました』のブザーのことを言っているのだろう。 残念。今日が来た時点でLeviをちょっといじくったから、いつものブザーが鳴っていないだけだ。 「そうだね。そうだったら、良かったね」 実際は――二人。グノーシアが残っている。 私たちの、勝利だ。 「残念でした! 私とククルシカが、グノーシアだよ!」 「――な、」 思わず驚いた様子の沙明に私は、笑顔で提案。こっそり持っていた、脅迫用の鉄パイプを見せびらかしながら。 「だからあなたが消える前に私と一緒に遊ぼう! ねえ、沙明!」 「……ナニして遊ぶっつーんだ? ベッドの中の遊びっつーんなら大歓迎ですけどねェ?」 心を隠すような、軽薄な笑み。だがその中には、私の隙を狙っているような感情も見え隠れする。 「ああ、そういうのは駄目だよ? だってそれじゃ、沙明がやりたいことになっちゃう!」 まあ、私がそういうのをやってみたくないわけじゃないんだけど。でも、せっかく今の私はグノーシアなんだから、好き勝手暴れ回りたい。 とはいえ、私にはグノーシアになったときのSQみたいな、ゴア的趣味はないんだけど。彼女の真似をしてやってみたことはあるのだが、あんまり楽しくなかったというのが正直なところ。 ま、でも。彼女の愛用する管理首輪は結構イケてると思う。ニコ、と笑って私は、懐からそれを差し出した。 「だからこの首輪をつけて、ご奉仕してみてよ! それで私が満足できたら、消さないであげられるかもよ? あ、性的なのは駄目ね、やった瞬間に消すから」 「逆にムズくねーかァ?それ。普通ご奉仕ってベッドの中でヤるもんだろ」 「口答えしないで」 わざと冷たく言い放つ。そして、脅しのための鉄パイプを彼の目の前に差し出した。流石に身の危険を感じたのか、沙明は無言で管理首輪を自らつけた。 じゃらり、と沙明の首から鎖の音が響く。私はそれを、満足しながら眺めた。 「あっはは、いい眺め! ねえどう? 似合ってるよ?」 そして笑う。完全な侮辱だ。権力者を嫌う彼に、私はグノーシアという力を振りかざして支配下に置く。首輪をつけたペット扱いなんて、……彼の過去を考えれば、嫌に決まっているだろう。殺された、沙明の友人たちのことを思えば。 それにも関わらず、沙明は不敵に笑った。 「ヘェ、イイ趣味してんじゃん? SMプレイくらいなら大歓迎ですよ?」 「減らず口だね。それがどこまで続くかな?」 鉄パイプを捨てて、沙明の目の前に指を突き出す。もう少し近付けば触れられる距離だ。あと数ミリで、彼のことを消滅させることができる。 流石に沙明も後ずさった。彼は、何よりも、消されることを恐れている。 「で。沙明はどうやって、命乞いするのかな? 良い命乞いができたら、消さないであげられるかもよ」 それ自体は本当だ。私がループするまでの間、どうにか保てばいい話だから。それでもククルシカに消されるかもしれないけど、その後のことまでは私は知らない。 沙明は数秒間黙った。そして座り込み、土下座の体制になって、口を開く。 「スンマセンっしたーー!!」 ああ、やっぱり土下座か。そうだろうとは思ってたけど。 「俺、何でもします! 靴でも舐めます! だからどうか消さないでください! そのためなら、奉仕でもなんでもするんで!!」 頭を地面に擦り付ける勢いで命乞いする彼。 いつも議論中にやる、コールドスリープ回避のものともまた違うような気がする。 コールドスリープとは違う。……彼は今、本当の死を目前として、必死になっている。 ゾクゾクした。 「うんうん、いいねいいね。その心意気に免じて、消すのだけはやめてあげようかな?って思えるよ」 地面に頭を擦り付ける彼の頭に、私は足を置く振りをした。 痛めつけること自体は私の趣味ではないからら、足に力は入れない。これはあくまでポーズだ。フリ。それでも侮辱には変わらない。 「……ッ」 少しだけ遊んでから足をどけると、沙明の苦虫を噛み潰したかのような表情が少し見えた。 ああ楽しい。完全に媚びへつらうことができていない沙明は、それだけグノーシアである私に従うのが嫌なのか。ああ、最高だ! だけど。それでも私の、沙明を消したい気持ちは消えない。むしろもっと嘲った後に、消してやりたいと思ってしまう。 ああ本当に、最悪だ。だから、やめられない。私の口は、決して軽々しく踏み込んではいけないところに踏み入った。 「でも、沙明はそうやって土下座しても、友達を助けられなかったんでしょ?」 「――あ?」 土下座の体制から、思わず顔を上げる沙明。その表情は、驚きと共に青ざめていた。 「おま……なんで、んなこと知って」 「グノーシアはね、心を読めるんだよ? だからね、あなたの過去も、あなたの嫌がることも分かる」 大嘘だ。私は今、ループで蓄積した彼の過去を、嫌がらせのためだけに使っている。 本当に最悪だ。だけどその最悪が、どうしても楽しい。 「だからね、あなたがこうしてプライドも何もかも捨てて土下座でもなんでもしたとしても。絶望のまま消えていくところを見たいなー、って思っちゃう!」 楽しい。ループの中で溜まったフラストレーションを、鬱屈した気持ちを、全部沙明にぶつけている。 ああ、好きな人の絶望した顔が、好きな人に恨まれることが。こんなに気持ちいいなんて、知らなかった! グノーシアにしか分からない快感だ! 「知ってる? グノーシアにとって人を消すっていうのは、何よりも気持ちいいんだよ? 相手から恨みを向けられていると、余計にね!」 少なくとも私はそうだった。今なら、グノーシアのSQの気持ちがよく分かる。彼女みたいに肉体を痛めつける趣味はないけれど、どうやらグノーシアになった私は、好きな人の精神をボロボロにするのが好きらしい。 「安心しなよ。グノースに取り込まれて消えていくあなたも、ちゃんと気持ちいいからさ。多分ね」 そして、低い体制のままの沙明を見下して笑う。沙明は顔を伏せたまま、何も言わなかった。 ああ、楽しい。なんて茶番。このまま精神的に最高潮のまま、沙明を消してしまいたい。 そうすれば。身体を重ね合わせるなんかよりも、ずっとずっと、快楽が身を包むだろう。 そう。そうやって恍惚としていた、私は忘れていた。 首輪なんて、ちゃんと鎖を繋いでいなければ、ただの飾りだ。 まして私は、彼の手足を縛っていない。 そして彼は普通の体格の男で、私は大して鍛えてもいないただの女だ。今の私には人を消す力があるけど――それを除けば、ただのか弱い人間と変わらない。 そう。立ち上がった沙明に本気でぶん殴られれば、私なんかじゃなすすべもないなんて。全くもって、考えてもいなかった。 鈍い音が響く。立ち上がった沙明に頭を殴られたと気づいたのは、少し経ってからだった。 「アッハ……最初からこうしときゃ良かったわ」 頭がガンガンする。そんな中、沙明の冷えた笑い声が聞こえてくる。 気が付いたら、私は倒れていて。沙明は私を見下ろしていた。何も楽しくなさそうに、彼は低く笑っている。 「グノーシアだって凍らせちまえばなす術無いんだろ? なら、最初からこの手で殺しちまえば良かったんじゃね? ったく、アンタのンーフーに付き合ってやってた俺が馬鹿だったわ」 彼も興奮しているのか、声が震えている。冷や汗をかきながら、唇を歪ませて笑みを作っている。 これは、……相当、キレてるな。 ……舐めていたのかもしれない。沙明はグノーシアになっても、暴力性を発現させない方だ。だから、グノーシアとして虐げる私に対しても、大した抵抗はしないだろう――と。そう思っていた私は、馬鹿だったのか。 沙明は、とにかく生き延びるためなら、何でもする。 なら彼は、自分が生き延びるためなら、殺人さえもするのだろう。正当防衛だとは思うけれど――普段セクハラ発言はしても、グノーシアになっても暴力性を見せない彼が、今回ここまでした。 それだけ私が、彼の地雷を踏み抜いたということであり。生き延びるための意思を軽視していたということであり。グノーシアとしての遊びを楽しむあまり、油断していたということになる。 だけど、ひとつ断っておきたいのは。普段の私はグノーシアになって生きた人間を制圧するとき、もう少し警戒する。手足の自由を奪ったり、距離を取ったり。好きな人をいじめるのはことさらに楽しいという、グノーシアのSQみたいな最悪な気持ちもあったから、調子に乗っていたのもあるけれど。 でも今回はそうしなかった。そうせずにいても大丈夫だと、無意識のうちに思っていた。 ……ああ、なんだ。私、沙明に甘えていたのか。 沙明なら許してくれると、そう思っていたのかもしれない。 現実にはそうなるはずがないというのに。この沙明にとっては、消えたらそれで終わりなんだから、ループしてる私と同じ感覚でいるわけがないのに。 おかげでこのザマだ。自業自得だけど。 「生き延びるためなら土下座だってする。権力者の手中にだって入ってやる……けどな。それをやっても生き延びる可能性が見えねーっつーんなら、アンタを殺した方が早いんだよ」 それはその通りだ。自分を殺そうとしてくる相手への対処法は? 逃げるか、捕らえるか、殺すか。船の中で逃げ場がなく、下手に捕らえても反撃されて消される恐れもあるなら、殺すしかない。危害を与えてくる相手を殺せば、絶対に自分はもう死なないから。 痛みで上手く喋れない。そんな私を見下ろしながら、沙明は笑った。 「ハッ、マジのクソ女かと思ってたけど……そうやって黙ってんなら、なかなか可愛いじゃねーか。なあ? ナマエサマよ」 何も言い返せない。言い返さない。沙明は侮辱のつもりで言ってるんだろうけれど、この感じだと、その発言は反撃になっていないことに、彼は気付いていないのだろう。 「仕返しにこっちもお楽しみしてヤりたい気分だけど……やめとくわ。下手にお前と近付いても消されそうだし。俺、まだ消えたくねーし」 そして沙明は、落ちていた鉄パイプを手に握る。元々は、脅しのために私が持ってきたものだったけど。 あーあ。調子に乗りすぎた。 まあ、いいか。またループするだけだし。私がループして消えた後、沙明も私のことは忘れるだろうし。多分。 次のループの私は人間かな。人間だったら後悔するかも。まあ、でも、どうでもいい。 今となってはこうなってしまったけど、それでも。楽しかったな、とは思えるから。 そして沙明は鉄パイプを振りかぶる。 ああ、これ、完全に死ぬわ。 「沙明」 完全に私が悪い。私が、悪いんだけど。 ――このまましてやられてそのまま殺されるのは、なんか嫌だなあ。 ただの敵として、沙明に殺されるのは。 悪あがきに、私は、小さく口を開いた。 「すきだよ」 その言葉が言えていたか、沙明に届いていたかどうかは、定かではない。 でも、最期に見えたその瞳は、少し驚いていたように見える。それに満足しながら私は、意識を次のループに飛ばした。
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