▼時間軸:Chapter2自由行動~/アニメ3との矛盾あり 「えっと……苗字は『超高校級のスカウトマン』って言ってたよな。人の才能を見抜いて、希望ヶ峰学園にスカウトするスタッフの一員っていう」 「うん、そうだけど?」 きょとんとした顔で頷く彼女に、俺は、聞きたかったけどなかなかタイミングが合わず、今まで聞けなかったことを聞いた。 「それなら、俺がどんな才能で希望ヶ峰学園にやってきたのか――お前は、知っているのか?」 希望ヶ峰学園のスタッフの一員なら、俺たちのことを知っていてもおかしくはない。もちろん、俺のことも。そう思って聞いたのだが、苗字は苦笑いで返してきた。 「えーっとね、日向くん、あなたはひとつ勘違いしてるよ」 「え、勘違い?」 「私は確かに、希望ヶ峰学園のスタッフの一人だよ。スカウト能力も超高校級、それが希望ヶ峰学園。その中で唯一、現役高校生であり、今年度の希望ヶ峰学園の新入生であるのが私。……自分のことを思い出せない日向くんが期待するのも、無理はないけど」 申し訳なさそうな表情で、彼女は息を吐いた。 「でもね、確かに私はスタッフの一員ではあるけど、中心にいるってわけでもないから、入学者の全ての人のことを知っているわけではない。――ネットで公表されてた人と私が探した人以外は、この島で初めて知ったよ。だから、日向くんの才能は、私も知らないんだ。……ごめんね」 彼女の言葉を聞いて、膝下が崩れ落ちるような感覚がする。苗字なら、俺の才能を教えてくれるのではないかと思っていたけれど――当てが外れた。 「そ、そうか……」 なら、俺には、どんな才能があるんだ。どんな理由で希望ヶ峰学園にやってきたんだ。どうやったら、俺は自分に胸を張れるようになるんだ―― 落ち込む俺に、苗字はそっと言った。 「……でもね、私だってスカウトマンなんだよ。才能を見抜く力も、少なからずある」 え、と顔を上げると、苗字は優しく、力強く笑っていた。 「だから、私が日向くんと一緒にいれば、日向くんの才能もわかるかも。……ねえ、一緒にあなたの才能を探していこうよ。何か、わかるかもしれないよ」 その笑顔が、とても心強くて――俺は、少しの間苗字に着いていこうと、そう決めた。 それから俺たちは、自由に動ける時間があるとき、よく一緒に行動するようになった。 「よし、まずは図書館でテストしようか。簡単な五教科と、語学のテストだよ」 そうして、俺は苗字がつくったというテスト問題を解いた。図書館の資料を寄せ集めたとはいえ、そこまでしてくれるのか、と少し申し訳ない気分にもなったが、それ以上に問題が難しくて、頭を抱えた。 なんとか全問解いたので、疲れ果てた俺は机の上に突っ伏す。その横で苗字は、黙々と採点をしているようだった。静かな空間が心地よい。ペンで丸をつける音を聞き流しながら、俺は少しだけ、眠りにつく―― 「日向くん、採点終わったよ、起きて」 苗字に揺り起こされ、ゆっくりと目を開く。時計を見てもそんなに時間は経っていなかったが、随分長い間寝ていたような気がした。 「えっと……じゃあ、結果はどうだったんだ?」 恐る恐る聞いてみる。だが、苗字の表情はやや曇っていた。 「まず、国語はまあまあだね。英語はちょっと苦手? それ以外の言語も、全く読めないみたいね」 「……日本人なんてそんなもんじゃないか?」 彼女にそのつもりはないだろうが、責められているような気持ちになる。まるで、お前は能無しの役立たずと言われているようで。 「うーん、確かにそうなんだけどね。でも最低限、英語の文献くらい読めないと超高校級として活躍するのは無理という分野も結構多いんだよ。……少なくとも、学者系ではなさそうだね。他の教科も全体的にまあまあってところかな」 こんな訳の分からない島に連れてこられてそんな中でもテストを受けさせられて、何故こんなにもボロクソに言われなきゃいけないのだろう。文句の意も込めて、苗字のことをじとっと見つめる。 「まあまあ、手がかりの一つは見つかったんだし、そんな顔しないでよ! こうして日向くんの実力を見ることができたのもさ、あなたの才能を知る手がかりの一つになるんだよ?」 「……でも、テストの結果はそんなに良くなかったんだろ」 俺がそんな風に文句を言っても、苗字は屈託なく笑うだけだった。 「五教科のテスト結果がそんなに良くないなら、別の才能があるってことでしょ? まあ、決して悪くもないんだけどね。ともかく、次は別の観点から見ていけばいいってことなんだよ。すぐにでも試していきたいところだけど……疲れてるみたいだし、今日はこの辺にしておこうか」 「……そう、だな」 本当に俺に、才能なんてあるのだろうか? ――いや、ある、あるはずだ。だから俺はここにいる。そしてきっと、苗字となら見つけられるはずだ。 そう思って、深呼吸する。そうだ、慌てる必要なんてない。俺は希望ヶ峰学園に選ばれた、それは事実なのだから―― ……事実なんだよな? また別の日。俺たちは、ジャバウォック公園に来ていた。 「よし、じゃあ今日は日向くんの運動能力を見ようと思ってるよ。じゃあ体力を見るためにとりあえず中央の島を十周――」 「ちょ、ちょっと待て苗字」 島を十周くらいならなんとかいけそうではあるけど、しかしそれは今は必要ではないと思った。 「どうかした?」 「いや、その。多分俺、運動系には縁がないと思う……」 弐大に言われたことを言った。ラグビーに向いてるかもしれん、とは言われたけど、裏を返せばそれは、超高校級と呼べる運動系の才能は今の俺にはないということだ。 「なるほど、筋肉を増やせば素質がある、ってことはつまり、裏を返せば筋肉量が足りないってことだもんね。何か他に運動系の才能があれば弐大くんが見抜いてるだろうし、じゃあ私の出る幕はないかな」 苗字は思っていた以上にあっさりと引いた。それが少々意外で、思わず面食らう。 「えっと……自分で言ったことではあるけど、苗字自身は、俺に運動系の才能がないと思うか?」 「……私自身は、日向くんは体格はいいし、体力を見れば何かわかるかも、とは思ったけど。でも、専門の人がいるならその方がいいでしょ? 私はオールマイティにスカウトマンやってるけど、弐大くんは運動系に特化した超高校級のスカウト術を持ってるから」 ……なんか、少しだけ機嫌悪い? 難しい顔で、考え込むような素振りを見せる。 「怒ってるのか?」 「なんで? 怒ることなんて何もないよ。ただ、これからどうしようかなって考えてただけ」 運動系じゃないならなんだろう、と考え込む苗字。それを見て俺は、苗字は組んでいた予定が狂ったから微妙な顔をしているのか、と察した。 そう考えると、少し申し訳ない気分にはなったけど――それなら、逆に、こうしてはどうだろう? 「じゃあさ、今日は苗字のことを教えてくれよ。今日は俺のことはいいからさ」 「私のこと?」 意外そうな顔をして彼女はこちらを見る。俺は笑って頷いた。 「ほら、苗字と話してても、俺の才能のことばかりだったからさ。たまには苗字の話も聞きたいな、なんて」 「私の話……」 「苗字は何か、好きなこととかないのか?」 超高校級のスカウトマンと呼ばれている彼女は、一体どんなことが好きなのだろう。それが気になっての質問だったが、苗字は少々、予想の斜め上の回答をした。 「……日向くんのことを一緒にこうやって知っていくのが、今一番好きなことかな」 「えっ」 驚いて思わず固まってしまう。苗字、そんなことを思っていてくれたのか? 苗字の表情はいたって真面目で、嘘をついているようには見えない。 しどろもどろになって返事ができないでいると、ふと、苗字は表情を緩めた。 「あはは、冗談だよ、そんなに本気にしないで」 「な、なんだよ、はは」 ――そ、そうだよな。ただの冗談に決まっているよな。 なら、どうして――そんな、照れたような顔するんだよ。 「――もう、私の話なんていいでしょ! ほら、また日向くんの才能を探すための手伝いについて考えておくからさ。私、今日は帰るね! また今度ね」 「あ、ああ、またな」 そう言って彼女は逃げるように去ってしまう。――顔を赤らめながら。 今となっては、照れ隠しにしか見えないのだが――少し、期待しても良いのだろうか? 俺は自分の胸が高鳴っていることに気がついて、ドギマギしながらコテージに戻った。 それからはしばらくの間、苗字と二人で行動する機会がなかった。事件が起きて、小泉と辺古山が死んで、九頭龍も怪我をして――それどころではなかったのだ。 だけど、そんな中でも、非日常的な日常は戻ってくる。九頭龍が無事でいてくれた、それだけで俺たちは、どこか救われたような気分になる。こんな時でも、希望は失われていない。……狛枝じゃないけど。 ともかく。一人でいる気分ではなかったし、少し落ち着いて、気が緩んだのかもしれない。そんな俺は、久しぶりに苗字を誘った。苗字は少し驚いたような顔をした後、嬉しそうに微笑んだ。 それから俺が苗字に連れてこられたのは、新しい島にあった施設――ライブハウスだった。 「歌唱力はそこそこ、だけど絶対音感があるわけでもない。表現力はそれなりにあるけど、ちょっと思い切りが足りないかな」 ライブハウスで観客が苗字しかいない状態で歌わされ、色々とぐったりしてる俺に、苗字は冷静に言葉を投げかける。 「お前、羞恥に耐えて歌った俺に対しての感想がそれかよ」 「人前で歌うことが恥ずかしい、か。カラオケとか行かないの?」 「カラオケで歌うのとこんな本格的なライブハウスで一人で歌わされるのは別だろ!」 俺の言ったことに対しても、苗字はあくまでも、冷静に言葉を返す。 「うーん、そうだったとしても、日向くんは人前で演技をするような才能を持っているとは考えにくいね。いくらなんでも恥ずかしがりすぎ」 「歌い損かよ……。結構恥ずかしかったのに」 思わずため息をついたが、苗字はそこで、そうかな、と軽く呟いた。 「日向くんって、結構いい声してると思うよ? 私は好きだし、聞けて良かったなあ。ま、才能があるかどうかは別としてね」 「……別に、嬉しくない」 そう言われて、多少は嬉しかったけど、わざと拗ねた風に言ってみせた。苗字にもそれが伝わったのか、彼女は楽しそうに笑った。 やや恥ずかしい思いをさせられ、少し気が滅入っていたけど――苗字のこんな表情を見られたのなら、まあ、良しとするかな。
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