「これが、私の希望のカケラ」 合宿終了間際――私は遺跡の前で、自分の希望のカケラを眺めていた。 「ねえ、カムクラ君も希望のカケラ、見つかったんだよね? ……見せてもらっても、いいかな」 そして、近くにいた彼に声をかける。彼もまた、自分の希望のカケラを見ていた。 「希望……ですか。これが。僕と、あなたの」 カムクラ君が、本心では何を考えているのか、何が彼にとっての希望だったのか、それはわからない。 ただ、彼が希望を見つけられたことが嬉しくて、私はただ、こう言った。 「うん、そうだね。カムクラ君のカケラ、キラキラして綺麗だね」 「……これは一体、誰が望んだものなのでしょうね」 質問の形を取っているけれど、きっと彼には、答えはわかっている。きっと、それに対する私の答えも、予測できている。 その上で――私は、自分の思ったことを、素直に言った。 「カムクラ君には、いろんな人が望みを持っているんだと思う。私も、カムクラ君の希望のカケラを望んでいたよ。でも、希望のカケラはきっと、自分自身が望んだものなんだと思う。きっと、カムクラ君自身が、これを望んでいたんだよ」 いつも通り、彼の表情は読めない。それでも――最初に会ったころよりはずっと、柔らかい表情をしているように見えた。 それは、もしかしたら私の錯覚だったのかもしれないけど。 「そうですか。あなたは、それを希望しているんですね」 「うん。きっとそうだといいなって、そう思ってる」 彼がこうやって私と話をしてくれるだけで、これで充分なのだと、そう思った。 「ねえ、カムクラ君。カムクラ君とは卒業後、今までみたいには会えなくなるよね」 「そうですね。僕もあなたも、これからは別の道に進むのですから」 「……うん。でも、たまには、また会えるかな?」 少し緊張しながら、私は彼に問う。 彼は、一瞬考え込むような素振りを見せた。 そして。 「……苗字さん。これは、僕がしたいと思ってすることです。その上で、拒否したいと言うのならそれでも構いません」 それってどういうこと? そう聞こうとした、その瞬間―― 彼の顔が、急に近づいてきた。 驚いて思わず目を閉じてしまったけど、拒絶はしなかった。 カムクラ君の唇が、私の額に、そっと触れた。 「……おでこ? え、ええっ!?」 彼が、自分から私にキスするとは思っていなかった。でも、この間とは違って、私の気持ちはそれを素直に受け入れることができた。それを自覚して、思わず顔が真っ赤になってしまう。 目を開くと、こうして慌てる私を、彼はあくまで澄ました顔で見ていた。 「……これは、カムクラ君の予想の範囲内、だよね?」 カムクラ君に、思わずこう聞いてみる。それに対する彼の反応は、ある意味予想通りのものであった。 「ええ。試しにしてみましたが、予想通りの感触、予想通りの反応でした」 やっぱり、と息を吐く。 別に、嫌ではなかったけど。私はこんなにドキドキしているのに、カムクラ君にとってはなんでもないことだったなんて! わかってはいるけど、少し凹む。それでも赤くなった顔をどうにか鎮めようとしているときに――彼は、静かにこんな言葉を付け加えた。 「ですが、悪くなかったです」 え? と彼の顔を見上げた。 相変わらずの無感情そうな顔に見えたけど――でも、何かが違うような気がする。 これは、彼が私に悪くない感情を、好意を抱いてくれているのだと、そう思ってもいいのだろうか。 そんな素敵なことが、奇跡が起きたのだと、そう思ってもいいのだろうか。 そう思うと、胸がいっぱいになる。 「カムクラ君。絶対、絶対、また会おうね!」 そして、心の中に渦巻くたくさんの気持ちを、彼にこのような形でぶつけた。 ――少なくとも、私達の関係は、ここで終わりではない。これからの未来が、きっとあるはずだ。そう思いたかったから。 「それは、あなた次第です」 私が全力で気持ちをぶつけても、それでも彼は、つれなくこう言うだけだったけれど。だけど私は、もう一度笑って、彼に同じ気持ちをぶつけた。 そうすれば、少しでも彼にこの気持ちが伝わるのではないかと、そう思ったから。 「絶対、また会いに行くからね。そうしたらきっと――もっとカムクラ君と、楽しく過ごせると思うから」 私達の未来に、幸福がありますように。そんな祈りを込めた約束を、彼と結ぶ。 「そうですね。……そうなるといいですね。僕も、そう願っていますよ」 彼も静かに、だが確かにこう誓ってくれた。それが嬉しくて、私は、小さく笑った。 二人分の希望のカケラが、煌めいた。 これから、私と彼の関係が、どうなるのかは誰にもわからないけど。 それでも、この希望があるのなら。 きっと、私達の征く未来の道は明るいのではないか。そう思った。
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