初めての君と

▼アイランドモード  事故みたいなキスだった。 「ねえ、左右田」 「あー? なんだよ」  部屋に可愛い恋人が来たと言うのに、目覚まし時計を弄るのに夢中だったのが悪かったのだろうか。もうちょっとで目覚まし時計が走る、最高にイカすデザインの時計ができたはずなんだが……。 「ちょっとこっち向いて」 「だから、なん」  その先は言えなかった。  気が付いたら、唇を塞がれていたから。 「うーん……オイルくさい」  少しの間、触れるだけのキスをして――呆然としているオレから離れた彼女は、そんなことを平然と言った。 「……うっせ、うっせ! ちゃんと歯磨きしたっつーの! 歯磨き粉の味だっつーの! っていうか口の中からオイルの味がするわけねーだろうが!」 「あはは、ナイスツッコミ」 「っていうかそうじゃねー!」  楽しそうに笑う彼女に、オレは喚くように言う。 「その……ファーストキスだぞ!? もっと情緒っつーか、そういうのがないのかオメーは!?」 「初めてなの?」 「……っ」  上目遣いで聞いてくる彼女は可愛い。本当に可愛い。だけど、そういう問題でもなかった。 「オメーは、違うのかよ……」  我ながら情けない声だ。だけど、彼女はいたずらっぽく笑った。 「初めてだよ。左右田が、初めて」  その笑顔に思わずドキリとする。やけに大人びて見えて、目を逸らしてしまいそうになる。 「ファーストキスが、こんな、勢いで良かったのかよ、オメーは……」  ムードとかそういうの、あるだろ。そういうのって女子の方が気にするモンじゃないのか? むしろ、オレが気にしすぎなのか?  そう思っていたが――彼女は少し、照れくさそうに呟いた。 「だって、左右田にこっちを見てほしかったんだもん」  降参だ。そんな顔されちゃ、オレの負けだと、そう思わざるを得なかった。一体何と勝負しているかはよく分からないけど。 「じゃあ……もう一回、しようぜ」  それでも、やられっぱなしじゃ、気が済まない。  オレのこの申し出に、彼女はここに来て顔を赤らめて、そして小さく頷いた。  二度目のファーストキスは、事故のようなキスではないと、そう思った。

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