説明書は読みましょう!

 レッドなエナジードリンクだと思って飲んだものが、ブルーな逆エナジードリンクだった。なんだ逆エナジードリンクって。確かに缶の色合いがいつもと違うとは思ってたけど。 「それで、今日は休みたいのか?」 「……うん。ごめんね」 「わかった、お大事にな」  様子を見に来てくれた日向くんに事情を伝えて一言謝った後、早々にコテージのベッドに寝転がる。本当なら今ごろ、エナジードリンク効果でシャカリキになって採集を手伝いに行っていたはずなのに、逆エナジードリンク効果で死ぬほど怠くてこれ以上動けそうにない。自分の不甲斐なさに涙が出そうになるのも、逆エナジードリンク……ブルーラムの効果なのだろうか。  頭痛を抱えながら、何も知らずに飲み切ってしまった缶の説明文を読む。退廃的な気分になる逆エナジードリンク。ブルーラム、翼をもぎ取る。これを売り出そうとした人間、一体何を考えていたんだろう。 「失礼しまーす……と。あれ、いたんだ」 「こ、狛枝くん」  しばらくベッドの上でぼんやりしていると、狛枝くんがコテージに入ってきた。今日の彼は掃除当番らしい。幸運もとい不運で騒ぎを起こしがちな彼は、採集よりも掃除をしていることが多いのだ。掃除自体も得意らしいし。 「今日は狛枝くんが一人で掃除してるんだ?」 「うん。ちなみに他のみんなは採集に行って、休んでるのはキミ一人だけだよ」 「うっ、痛いところを突く」  そんなことを言いながらも、慣れた手付きでモップがけと、ゴミ箱の中身を回収してくれる狛枝くん。その様子をぼんやり見ていると、唐突に彼は喋り出した。 「ごめんね、ボクなんかが部屋の掃除当番になっちゃって。ゴミクズみたいなボクだけど、掃除は得意だからさ。終わったらすぐ出ていくよ」 「……うん、ありがとう」  ここは、適度に流すのが最適解だろう。掃除をしてくれてありがたい気持ちは本当だし。普段ならその過剰に卑下する言葉に何かしらの突っ込みを入れたかもしれないが、今日はその気力もない。今の私は、翼をもぎとられている。 「あれ。これ、ブルーラム?」 「そうだよ。その空き缶も持っていってくれると助かります……」 「うん、もちろんそうさせてもらうけど」  狛枝くんは空き缶を回収しながらも、机の上にあるものを見ていた。 「こっちのブルーラムは、まだ飲んでないんだね」  そう。ブルーラムはあと三本ある。 「まだ、というよりもう飲まないよ」  そしてため息。モノモノヤシーンからたくさん出てきたものだが、二度と飲んでたまるか。 「じゃあ、ボクが貰ってもいいのかな?」 「どうぞ。退廃的な気分になってもいいならね」 「ありがとう。キミは本当に素晴らしいね! 流石は超高校級の才能を持つ希望ヶ峰学園生だよ!」  狛枝くんは上機嫌でブルーラムを手にした。どうやら、彼はブルーラムが好きらしい。  しかし、彼が超高校級の才能を褒め称えるのはいつものことだが、このやり取りに私の才能は一切関係ないと思うんだけど。 「ははっ、ブルーラムが貰えた上に、キミのコテージで二人きりで話ができたなんて。ボクはやっぱりツイてるね! この幸運の次にはどんな不運が来るのかな? 楽しみだよ!」 「…………」  もしかして、狛枝くんがブルーラムをゲットするという彼の幸運の代償に、私の身体が怠くなるという不運が降り掛かったのだろうか。いや、幸運でも不運でもなく、注意書きを読まなかった私の不注意もとい自業自得なことは分かってるけど。  狛枝くんは特にこれといった不運を起こすわけでもなく、あっさりと掃除を終えた。 「じゃあ、お大事にね」 「……ああ、うん、ありがとう狛枝くん」  そんな言葉を交わして、彼はあっさりと立ち去っていく。ブルーラムの缶を持って。  ――もしかして私、彼の幸運に巻き込まれただけだった?  一瞬、こんなことを思ってしまったが。  ……まあ、私も狛枝くんと二人で話せて良かったし。ならこれでいいか、なんて思った。

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