「雨、降ってきちゃった……」 天気予報の嘘つき、と池袋駅で不平を漏らす。今日晴れだって言ったのはどこの誰だったか、と考えたところで、今日はニュースを見ていなかったことに気づく。 「あれ、でも誰かが今日は晴れるって……。あ、そうだ静雄くんだ。昨日言ってたから信じちゃった」 恋人の顔を思い浮かべ、少し顔が緩む。でも、雨どうしようかな、コンビニで傘買うか、お金勿体ないなあ、と思うとどうしても顔がひきつる。ビニール傘にお金を使うくらいなら貯金したい。そんな私のことを世間はおそらく『ケチ』という。 それでも、折角楽しく遊んで帰ってきたのに、びしょ濡れになって帰るのも嫌だな、と苦笑いした。背に腹はかえられない。風邪をひいて、明日からの仕事に支障をきたすのも、嫌だ。 「あれ、名前 さん? どうしたんすか、こんなところで突っ立って」 「! 静雄くん」 ぼんやり考えてたら、恋人に声をかけられた。口角が上がるのを感じる。 「偶然ね。実は、今日は傘を持ってくるのを忘れてしまったの。それで、どうしようかなあ、って考えていたところ」 もしかしたら静雄くんの傘に入れてもらえないだろうか、と一瞬考えたがその思考を打ち消す。それはちょっと、静雄くんの迷惑だ。 「偶然っすね。俺も傘忘れてどうしようか迷っていたところです。今日はてっきり晴れだと思ってたんで」 「……あらほんと、偶然。私もそうなの」 そこは偶然というか、静雄くんが言っていたことを真に受けたのだから必然とも言えるのだが、それは黙っていた。 「しかしこの雨じゃあ傘に入っても濡れるでしょうね。傘は買うとして、駅からだったら名前 さんの家より俺の家の方が近いし、うち来ますか」 恋人に「家に来るか」と言われたら普通は多少なりともドキドキするところだけど、今日の私はそれどころではなかった。 「そうね、じゃあお願いしようかしら」 静雄くんが傘に入れてくれる、というので相合い傘をして二人で帰った。こうして二人でいると、雨もそんなに悪いものではないように思えてくる。 「静雄くんはどこに行ってきたの? 私はね、友達と遊びに行ってたのよ」 「俺ですか? 俺はちょっと、幽の舞台見に行ってたんすよ、折角なんで」 「ああ、幽平くんの! 私も行きたいと思ってたところなのよね。今度行ってみようかな」 「面白かったっすよ。幽もイキイキしてました」 「そりゃあ、舞台上の幽平くんはいつもイキイキしてるもんね……」 あめあめ、ざあざあ。二人でいると、時間もあっという間。いつの間にか静雄くんの家についていて、気づいたら雨があがっていた。 「雨、あがったかあ……帰ろうかな。静雄くん、傘ありがとね」 少し名残惜しく思うも、仕方がない、と離れる。気づいていなかったけど、傘は二人の距離をかなり縮めていたようだ。 「……あの、名前 さん」 なあに? と返事をすると、珍しく顔を赤くして、静雄は私に対して囁いた。 「雨、あがっちゃいましたけど……。俺の家、入りません?」 私が、凛々しい顔を背け、照れくさそうにそう言った静雄に、なんて返事をしたか? それは、私と静雄だけの秘密。
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