悪戯心

「ナランチャ? ……寝てるの?」  私が買い物から帰ってくると、ナランチャは机の上に突っ伏して寝てしまっているようだった。いつかのことを思い出して、思わず笑みがこみ上げる。  確か、フーゴから出された宿題をするために勉強していたはずだが、私がいなくなっているうちに、集中が切れて眠ってしまったらしい。  そのまま寝顔を眺めていたい気持ちを堪え、毛布を取ってこようと立ち上がる。風邪でも引かれてしまったら大変だ。  そして、彼に静かに毛布を掛ける。ナランチャは依然、規則正しい寝息をたてながら眠っていた。  そんな彼を見ていると――自分の中に、ちょっとした悪戯心が芽生えたことがわかった。  そういえば、彼の寝顔をここまでまじまじと見ることは、これまであまりなかったと思う。若干の幼さの残る顔立ちが、無防備な寝顔ともなるとさらに小さな子どものようにかわいらしい。  思い切って、つん、と彼のほっぺに人差し指を当ててみた。柔らかい感触が私の指に伝わってくる。  少し様子を見たが、起きる様子はない。ただ、それから少し顔を顰めて「ん」とだけ呟いたように聞こえた。 「……起きちゃった?」 「んー」  もしかして起きたのか、と小さく声をかけてみたが、それでも彼は目を開けなかった。  やはり、まだ眠っているようだ。依然無防備な姿をさらす彼の姿を見ていると、もう少しだけ悪戯を仕掛けてみたいという気持ちが湧き上がってくる。  そして私は思い切って、痛くならない程度に彼の頬をつまんでみた。それでも、起きる様子はない。  そしてゆっくり、そのまま彼の頬を伸ばしてみた。 「うーん……?」  寝ぼけ声のようなものが、彼の口から漏れる。ヒーローであり大事な人であるナランチャが、頬を伸ばされ、間の抜けた表情になってしまっている。  それがどうにもおかしくって、少し笑ってしまった。  まだ悪戯心は収まっていなかったが、これ以上エスカレートしてしまうと、さすがに起きてしまうかもしれない。そろそろやめておかないと、後で怒られてしまいそうだし、この辺でやめておこうか。  そう考えたところで、ひとつだけ思いついてしまった。本日最後にして、一番素敵な悪戯。いつもだったら、あまり自分からできないこと。  ――こんな時くらい、たまにはいいよね。  そうして、意を決して、彼の側に近づいた。  唇が、彼の額に触れた。 「ナランチャ、好きだよ」  それから、彼を起こさないように小さく囁いた。 「……んー」  ナランチャが小さく寝ぼけ声を出したのに気付き、ふと私は我に返る。――なんだか、突然恥ずかしくなってきた。  そして、私は慌てて彼の側から離れた。そして少し頭を冷やしてこようと、一度外に出ることにした。  今日の悪戯はこれで終了だ――そう思いながら、小さく笑った。自分だけのちょっとした秘密が、どこかむずがゆかった。 「ったく。そういうことは、起きてるうちにしろよなァ……」  ひとり残されたナランチャが、顔を赤くしながらこう呟いていたことは、彼女は知らない。