チームメンバーの会話

「どうしたんです、ブチャラティ」  利発そうな少年が、難しそうな顔をして黙り込んでいる男に対して声をかけた。 「……ああ、フーゴか」  男は手元の資料から顔を上げ、少年の方に顔を向けた。その顔は、どこか疲れているように見えた。 「それって」  フーゴは、ブチャラティの手元にあった資料を何気なく目にする。それに対し、ブチャラティも軽く答えた。 「ああ。『彼女』のだ」  彼女。それは最近チームに加入した、新入りの少女のことだろう。その資料は、大層な内容ではなかったが、記憶喪失だという彼女には重要な情報だ。 「彼女が、どうかしたんですか?」 「フーゴ。おまえは『彼女』のことを、どう思っている」 「どう、って」  ブチャラティの問いに、フーゴは黙り、少しの間だけ逡巡した。そして、彼は慎重に答えを出す。 「ぼくは、まだ彼女が、信用できる人物だとは思っていません。今のところ怪しい動きはしていませんが、しばらく様子見するしかないでしょう」  フーゴは、ジュリオ殺しの犯人は彼女だと思っていた。ジュリオが率いていたチームメンバーが組織を裏切ったことで、ジュリオ殺しの犯人探しの件はなあなあとなってしまっていたが――彼女が本当にジュリオを殺していた場合、『組織』は彼女を始末することには変わりないだろう。 「なるほどな。まあ、オレも大体同じ見解だ」  フーゴの答えを聞き、ブチャラティは頷く。そして資料を閉じ、彼は独り言のように呟いた。 「だが……彼女が本当に、ただの少女だったなら……本来、こんなところに居させる訳にはいかないだろう。早く、故郷に帰らせるべきだ」  ブチャラティの性格が垣間見える言葉。それに気づいたフーゴは少し黙った後、彼に対してそっと聞いた。 「ブチャラティ、あなたは、彼女が本当に記憶喪失だと思っていますか?」  実際問題、彼女が信用できない人物だった場合、記憶喪失は嘘だという可能性もゼロではない。最悪、敵対する組織のスパイであることもありえるのだ。しかし、ブチャラティはあっさりとそれを否定した。 「そこについては、オレは疑っていない。彼女は、嘘はついていない皮膚と汗をしていた」 「……舐めたんですか?」 「舐めてはいないさ。彼女の表情を見れば、舐めなくったってそれくらいはわかる」  二人はそこで押し黙った。  彼女が一体何者なのか――結局、現時点で、二人にはそれがわかるはずもなかった。 「……ナランチャは、何故彼女を連れてきたんでしょう」  少年の口から、ふと、ほぼ無意識的に飛び出た言葉。  フーゴは今まで、それについて考えたことはなかった。彼なら、考えればすぐにでも理解できることだったかもしれなかったが、あえて考えることを放棄していた。  ブチャラティはそれを理解したのか、フーゴに対して遠回しに言った。 「それが、本人以外にわかる人間がいるとしたなら――それは、おまえしかいないんじゃあないか?」  ブチャラティの言葉に、フーゴは目を見開く。  彼女は確かに、孤独な目をしていた。  それは、どこか昔のナランチャにも似た目だった。  そして、昔の自分の―― 「さて」  ブチャラティはおもむろに立ち上がって、フーゴに言った。思考を巡らせていたフーゴは、そこで我に返ったように顔を上げる。 「今、彼女について考えていても仕方がない。そろそろ、仕事の続きをするとするか――フーゴ」 「……あ、はい、そうですね。そう言えば、まだやらなければならないことが残っていましたね」  さっき考えかけた思考を振り払い、少年はその頭脳をギャング家業へと切り替える。  ――まさかな。  自分と彼女が似ているかもしれない――なんて、そんなこと。  フーゴが何を考えたかを、理解しているのかしていないのか――ブチャラティはそんな少年のことを見て、誰にも気づかれないようにそっと口角を上げた。