13.ギャング一日目

「君がナマエ・ミョウジか……」 「…………はい」  おかっぱ頭の男――ブチャラティに真っ直ぐ見つめられ、思わずたじろいてしまう。私はこの男に攻撃されかけ、私は逆に攻撃して彼らの記憶を奪ったのだ。何事もなかったように振舞う方が無理な話だろう。  ちら、と周りを見る。スーツの少年、フーゴは腕を組み、神妙な顔をして私を見ていた。ナランチャは冷や汗をかきながらこっちの様子を眺めていた。なんだか、どことなく不安になってくる。 「……うちのチームに人を入れようとするなら、前もってオレに相談してほしい所だったが。まあ君に言ってもしょうがない、ポルポさんからは既に入団のバッチも貰ったようだしな。他のチームに移動させることも考えたが、敢えて他のチームに入れることで君の身が安全になるとも思えない」  ブチャラティはスッ、と手を伸ばした。ビクリと反応するが、肩に手を置かれただけだった。  そしてブチャラティは、周りにいる人たち全員に向かって、言う。 「……あまり、無断でこういうことはするな。これは『忠告』だ。『組織』に入ることが良いことだとは限らない。わかるか」  フーゴもナランチャも、どことなく複雑そうな表情を見せる。ナランチャたちはもしかしたら私の知らないところで揉めたのかもしれない。申し訳ないことをしただろうか、と今更ながら胸が傷んだ。 「ナマエ・ミョウジ。ひとまず君をうちのチームに入れることにしよう。ただし、『組織』は女子供だろうと荒いことをやらせることがある。できるだけ君に割り当てないようにはするが……。覚悟するんだな」  私は生返事をした。私は本当にギャングとして上手くやっていけるのだろうか? 何とかなるだろう、という楽天的な自分と、不安に塗れた心配性な自分が、私の中で喧嘩しているような気分である。なんだか胃痛が起きた。  丁度その時、スープが運ばれてきた。あの時と同じ、スープとパスタだ。 「あの……。食べても、いいですか」  ブチャラティに聞くと、構わない、と頷かれた。このスープの香りを嗅ぐと、私はどうしても熱々を飲み干したくなってしまうらしい。  あの時と同じく、一気に飲み干した。舌が熱くなって、火傷してしまいそうだった。 「今日は解散するが、君はどうするんだ。ホテルを用意してやるか?」  ブチャラティにそう聞かれた。そして私が返事に詰まっていると、ナランチャはおもむろに、ブチャラティに対してこう告げたのだった。 「ナマエはもう暫くオレの家に泊めるよ、ブチャラティ。なあナマエ、それでいいか?」 「えっ? ああ、うん。それが、いいかもね」  私は驚いて、思わず肯定の返事をしてしまった。私としてはとてもありがたい話なのだが、病院代といい、ここ二日の食費といい、彼の懐具合が心配になる。大丈夫なのだろうか? ――なるべくお金をはやく稼いで、返さなきゃ。  ブチャラティはそうか、と言って踵を返した。明日、仕事について詳しく話す、明日の午前、ここに集合だ、と伝言を残して。  フーゴがずっと、何か言いたげにそんな私たちの様子を見ていた。だけど、彼も結局、何も言わずに立ち去った。 「じゃあ、オレたちも帰るか」 「……うん」  ナランチャに、どうして私を泊めてくれるの? とは聞けなかった。聞いてしまったら、何故かこの関係が崩れてしまうように感じたからだ。  ナランチャと、他愛もない話をして帰路についた。日が傾きかけ、夕暮れが私たちを照らす。ナランチャの笑顔を見ていると、何故か彼がオレンジに溶けてしまいそうに感じた。  目の錯覚だと思うことにした。  これが、私のギャングとしての一日目。思ったよりは平穏で良かったと思う。そして、これからもそこまで荒っぽくならないことを期待した。  それはとんでもなく甘い考えであったことを、この時の私は知るよしもない。