12.出来心の裏には

 刑務所の外で、二、三回深呼吸する。 「『イン・シンク』……どうか、出てきて。私には、あなたが必要なの……」  出てこなかったらどうしよう、とは考えなかった。私は一度、『彼女』を信用してみることにしたのだ。  ブオン  思ったより呆気なく、すぐに『イン・シンク』は出てきた。そして、ホッ、としたところで『彼女』は確かに微笑んだのだ! 「『ナマエ』……。私ハ貴女、貴女ハ私デス。それを、忘れないで」  『イン・シンク』が微笑んで言った言葉。その意味について考える時間は、どうやらないらしい。もう、約束の時間だ。早く、無事に刑務所内に入らなければならない。  私と『イン・シンク』は、刑務官の記憶を吹っ飛ばしつつ、『ポルポ』の元へと向かう。  なんとか刑務官から逃れたところで、私はそっと『イン・シンク』に感謝を述べ、彼女を引っ込めた。 「え~~~と、君の名前はなんだったか」 「ナマエ・ミョウジです」  想像出来た問いなので、つい食い気味に答えてしまった。人の名前くらい覚えてほしい。 「そうだったそうだった……食事の後は頭に血が行くなあ」  どうやら特注の巨大クッキーを食べ尽くした所だったらしい。もはやここまでくればクッキーですらないと思うが。 「さて……『銃』はきちんと持ってきたようだね……。おめでとう、『ナマエ・ミョウジ』。『銃』を全く壊さずに持ってきたから、君は『信頼できる』人間であるということになる……」  本当に、これだけのテストだったのか。呆気ないと言うか、まだ、裏があるような気がしてならない。 「君の入団を認めるよ……。バッチを取っていくといい」  いつの間にかバッチが置いてある。頷いて、それをポケットに忍ばせた。 「ええっと、ブチャラティの部下の、『ナランチャ・ギルガ』だったかが、君を紹介したんだったな……。ブチャラティにもう話は通っているんだろう、暫くはブチャラティの指示で行動したまえ」  はあ、どうも……と言って、私は早々に立ち去ることにした。これ以上この巨漢といたらこっちが太りそうだし、何よりもう必要なことは何も無いと思ったからだ。  帰り道にでも『イン・シンク』が言ったことの意味を考えようとしていたが、それは叶わなかった。 「おう、ナマエ。お疲れ。入団おめでとう!」 「わ、ナランチャ! 迎えに来てくれたんだ、ありがとう」  何故なら、刑務所の前でナランチャが待っていたからだ。ナランチャは笑顔でこっちを見ている。 「いやー、ナマエが無事入団試験に受かってよかったぜ。どんな内容だったんだ?」  ナランチャが歩き始めるので、私は慌てて着いていく。――ナランチャの家の方向ではない、ということは、もうブチャラティたちのところに向かうのだろうか? 「んー……。オモチャの『銃』をただ、二十四時間見守るだけの試験? ……なんか、裏があるような気がしてならないんだよね……」  私が言うと、ナランチャは神妙な顔をして頷いた。私は首を傾げる。 「多分、それ……ナマエ。引き金を引いたり、『銃』を壊したら……大変なことになったぞ」  壊れたら入団できなくなるだけじゃないの、と聞くと、ナランチャは首を振った。 「引き金を引いた途端、『スタンド使い』にさせられる。オレは違う試験を受けたけれど、多分大体同じようなもんだ。素質がない人は死ぬらしい。そして、既に『スタンド使い』であるナマエが同じことをさせられると、……もしかしたら、死んでいたかもしれない」  ゾッ、と背筋に冷たいものが走った。やっぱり、この試験には裏があったのか!  あの時、つい出来心で無駄に『銃』を触ってしまっていたら……。私は、死んでいたかもしれない。改めて、あの時声をかけてくれたナランチャに、そっと感謝した。 「ま、でもナマエが無事に入団試験に合格できてよかったぜ! オレが助けたのに、オレのせいで死んじまったら気分悪いしよ。ちょっと心配してたんだぜ」 「あはは……。ありがとう……?」  なんとも言えない気分で笑っていると、ナランチャもつられて笑った。 「ねえナランチャ、ところで、どこに向かっているの?」 「ああ。……ブチャラティとフーゴに、君を紹介する」  やっぱりそうか、と私は身構えた。ブチャラティとフーゴには、勝手に記憶を消してしまったという負い目がある。だが、彼らの下で働く以上、それは覚悟しなければならない。 「ブチャラティと、フーゴ。彼らに、私のことはもう言っているの?」 「………………ああ」  ナランチャは凄く歯切れが悪そうに言った。  ……もしかして、ブチャラティたちにはまだ殆ど何も伝えていないのでは……? ポルポが『ブチャラティたちにはもう伝わっているのだろう』と言ったのも、彼の推測でしかない。  そして多分……ナランチャは、ギャングの下っ端だ。勝手に私なんかを引き上げてよかったのか? ……なんか、心配になってきた。 「……ほら、着いたぜ」  一人で考え込んでいると、いつの間にか目的地に着いていたらしい。 「ここは……」  私は、不安を一瞬忘れ、唖然としてしまった。  そう、ここは、私が初めにブチャラティたちに食事を貰った、そして、初めてご飯を食べ終わったときに「ご馳走様でした」と言った、あのレストランであった。