そっ、と壊れないように、渡されたものを受け取る。こんなものを守っていろ、なんて言われても。ボロっちい、ただのオモチャの銃だ。 確かに、扱いを取り間違えればすぐに壊れてしまいそうではある。それでも、慎重に取り扱えば、壊れることはないだろう。まあ目を離した隙に壊れるといったことはありえるし、油断はできない。仮に壊れたとしても、なんとか修復することはできそうであるのだが……完璧に、この通りに修復できるかは微妙なところである。もし修復したとしたら、愛着のない人が見れば大丈夫かもしれないが、愛着のある人がいればダメ、と言ったところだろうか。と、壊れる前提で物事を考えている自分に気づいて、苦笑した。 「これを、全くこの状態のままで、明日の十五時にここへ持ってくるんだ……。簡単だろう? 脆く、今にでも壊れてしまいそうだが、絶対に壊してはいけない。君が、組織から渡されたものを大切に扱えるかどうかも兼ねて、このテストをさせてもらう」 曖昧に返事をする。本当にこんなものを守るだけがテストなのか? なんだか……『信頼』できない。裏に何かあるがような気がしてならず、私はこっそりと息を吐いた。 「君がもしこれを壊して戻ってきたのなら……あるいは、明日の十五時に戻ってこなかったのなら……。君は信頼できない人間、ということになる。二十四時間だ。明日の十五時を、楽しみに待っているよ、ナマエ・ミョウジ」 はあ、と外に出る道のりで、何度目かわからないため息をつき、慎重にオモチャの銃を運んだ。要するに、壊さなければいいんでしょ。集中さえ切らせなければ、なんとかなる。 そう考えていた、その時。 「面会人はゲートをくぐったらボディ・チェックを受けてください!」 はあ? と思わず素っ頓狂な声が飛び出た。帰りもボディ・チェックを受けなければならないなんて、聞いていない。もしかして、この銃も持ち帰れないの? ――これも含めて、入団試験はもう始まっている、と言うことか。ポルポが買収してくれたっていいじゃない! ……さて、どうしよう? 「館内を出てもいいという許可が出たら――ブヘラッ」 その時、なんと『イン・シンク』が勝手に出てきて、看守たちを吹っ飛ばした。 ――ここで使う気もなかったし、そもそもここ最近全く出てこなかったのに。 ということは、看守たちから『私についての記憶』が飛んだことになる。『彼女』のスピードは異常だ。看守たち三人を一瞬でぶっ飛ばしてしまった……。かといって、看守たちが目覚めるまでそう時間はかからない。私は銃を持ちながら慌てて外に出た。銃は……、大丈夫。壊れてない。 「あなた……。ここ一週間、なに、してたのよ。都合の良いときばかり、出てきて……。まあ今回は助かったわ、ありがとう」 外で『彼女』に向かって呟いた。『彼女』は何も言わなかったが、微笑んだようにも見える。そして、勝手に消えてしまった……。 私は、『もう一人の私』のことを何も理解できていない。出そうと思っても出てこないし、出そうと思っていないと勝手に出てくる。声に感情を感じることはできないのに、薄くはあるが顔に感情を浮かべる。そう、私は『もう一人の私』のことを全く理解できていないのだ。だけど、わかることがひとつ。……『彼女』は私の味方では、いてくれている。とりあえずは、それでいいのかもしれない、と口の中で呟いた。 ところで私は、しばらくの間だけどナランチャの家に居候することになっている。勿論やましい意味はない。彼には、感謝するしかないのだけれど……、目を離した隙に、ナランチャがこの銃を触ってしまったら大変だ。すぐ壊れてしまうかもしれない。家に付いたら、すぐに部屋に引きこもろう。 オモチャとはいえ、銃なんて持っていたら普通不審がられる。なるべく隠すように、それでいて絶対壊れないように腕で抱え、ナランチャの家へと急いだ。 「おう、ナマエ。おかえり、どうだった?」 扉を開けて、お菓子を食べていたらしいナランチャが出迎えてくれる。どうやらナランチャは、先に帰っていたらしい。今日の仕事はどうやら休みのようである。 「ん、まだ。明日までわからない……、ナランチャ、今日はちょっとそっとしておいて。あと、私の部屋のものには触らないでね。今から二十四時間が入団テストの山場だから」 「んー? ああ、わかった」 ナランチャに声をかけて、私は宛てがわれた部屋に籠る。物がある小さな部屋だが(もともと物置だったようだ)、寝るスペースと『銃』をそっと置いておく場所くらいはある。とりあえず、一安心ってところか。 勝手なこととは思ったけれど、部屋のものを少しだけ片付けることにした。万が一崩れてきたら大変だからだ。ナランチャには後で謝っておこう。 「…………ふう」 一通り部屋を整え、銃の壊れる心配はほぼなくなった。あとは私が不注意で必要以上にそれを触ってしまったりしなければ大丈夫だろう。地震が来たら? ……なるべく衝撃を与えないようにして、守るしかないかな。 「あと二十三時間か……」 『銃』が壊れないように最大限の気を使い、そろりと寝転がる。油断すると壊れてしまいそう、と最初はそう思ったが、意外と大丈夫なのでは? ――危ない、危ない。こういう油断が一番危険だ。こんな風に油断した人が、『組織』に入れなかったのだろう。油断は、大敵だ。 「…………しかし、暇」 目を離した隙にいつの間にか壊れることもあるかもしれない。だからといって、今から二十三時間、ずっと注意深く見張っていなければならないのか。そう思うと、目の前にあるそれを弄りたくなるのが人の性。 ちょっとだけ手に取って眺めて見ようか? この銃で打つ真似とか。銃のオモチャで遊ぶのは、ちょっとだけ楽しそうだ。少なくとも、じっとこれを眺めているよりは。 そろそろ、と手を伸ばしかける。もう少しで手が『銃』に触れそうだ、というところで。 コンコン。少しだけ遠慮がちなノックが聞こえる。私はピタッ、と手を止めた。 「なあナマエ、そっとしておいて、って言ってたけどごめんな。今大丈夫か?」 大丈夫、とドアの方に振り向く。銃には指一本触れることなかった。 「今日の晩飯と明日の朝飯、コンビニでいいか? どこか出かけようかとも思ったけど、多分……あんまり外に出られない試験だろ?」 「……うん、そうだね。ありがとう、ナランチャ」 おう、とナランチャは声をかけて、パタパタ去った。――ナランチャの声を聞いて、冷静さを取り戻した。この『銃』、触っただけならまだしも、下手に振り回したりしたらすぐ壊れてしまうかもしれない。もしかしたら、――引き金に指を入れた途端に、罠が発動する……という可能性も考えられる。木っ端微塵に壊れるとか。 私は我慢して、『銃』をただ見張ることに神経を集中させた。 「なあナマエ、飯食うか?」 「うん、食べれる。悪いけれど、ドアの外に置いておいてくれるかな」 それから二十三時間、ご飯と、二~三時間の仮眠以外では銃をただ見張っていて、指一本触れなかった。壊れることもなかった。 最終的に私は、試験を成し遂げたのだ! なんだか、すごく長かったような気がする。一日がこんなに長い日は、これまでもこれからも多分ないだろう。 そして私は今、ポルポが入っている刑務所の前に来ていた。――さて。これが、最終テストだ。またボディ・チェックを受けなければならない。さて、『イン・シンク』は出てきてくれるかな? もしも、『彼女』が上手く出てきてくれなかったら。……どうしよう。