「……なあ、君は記憶がなくて、寂しい、って思うことはねーの?」 「……言っていることがよくわからないんだけど」 居間でお菓子を食べていたナランチャは、突然私に向かって問いかけた。飲み物を飲もうとして部屋から出てきたところの私は、ナランチャが放った言葉に少しだけ奇妙な気分になる。 「なんというかさあ……オレには、なんつーか。あったかい、ていうの? そういう昔の記憶がある。もう二度と戻れない昔の話だけど……、思い出すと懐かしくて、あったかくて、満たされる気持ちになるんだ。けど、君にはないだろ。寂しくならねーのかな、って思ったんだ。……嫌な質問だったらごめんな、忘れてくれ」 「い、嫌じゃないよ! 大丈夫」 申し訳なさそうに謝るナランチャに、私は慌てて言った。そして、ナランチャが放った言葉に対して考える。 「……そうだなあ。私は別に、寂しいと思ったことはないよ」 「そういうもんなのか?」 「うん。だって、ナランチャがいるから。はるか昔の温かい記憶なんてものはないけれど、それでもナランチャが私を見つけてくれたから。助けてくれたから。私のヒーローが隣にいるんだから、寂しいわけないじゃない」 ナランチャは私の言ったことを聞いて、その意味を噛み砕くかのように黙り込んでしまう。そして少し経ったあとに、彼の顔が少しづつ赤くなっていった。 「そうか、それなら……。うん。それならよかったぜ」 かなり照れくさそうに笑う彼を見て、私も段々恥ずかしくなってくる。その場の勢いで変なことを言ってしまったか、と少しだけ後悔したが、それは杞憂に終わったようだ。 「じゃあ、ヒーローは――オレは、君のことを守らなきゃな! ……君が寂しくならねーように、君が笑っていられるように」 ナランチャは私の目を、痛いほど真っ直ぐ見つめてこう告げた。視線がぶつかった時に、私の心臓は跳ね上がる。 「だから、守らせてくれ。なあ、」 そこで、ナランチャはこれまでにないくらい真剣な表情で、私の名を呼んだ。 その、意外なほど凛々しい瞳に、決意がこもっている声色に――熱が私の顔に集中し、私の心臓は砕けてしまいそうなほど鳴ってしまう。 「……ありがとう、ナランチャ。嬉しい」 私が緊張した顔をなんとかほぐすように笑うと、ナランチャもまた、ふわりと微笑んだ。 私は、まだ幼さの残る可愛らしい笑顔の中に確かに含まれる、凛々しい瞳に対して憧れずにはいられなかったし――なにより、格好良くて可愛いナランチャ自身に対して、どうしてもときめかずにはいられなかった。 「……ナランチャ」 私が呼ぶと、彼はなんだ? と振り向く。早鐘のように鳴る心臓の音が耳に届いて、うるさい。ナランチャに今の気持ちを伝えてしまいたがったが、それを言うことはできなかった。 「……なんでもない」 「え――ッ? なんだよォ……」 結局私は、何も言わなかった。私が何を言おうとしたのか、何を思ったのか。それにはもう気づいていたけれど、今回言うのはやめることにした。 「ナランチャが、私を守りきってくれたら、さっき私が何を言おうとしたか教えてあげる」 「……なんだよそれ?」 怪訝そうな顔を見せるナランチャを見て、私はただ笑った。笑うことで、無意識のうちに誤魔化していただけかもしれないけれど、それでも構わなかった。 もう少しだけ、このままの関係でいたい。もう少しだけ、彼にはヒーローでいて欲しいし、このまま私の隣にいて欲しい。 それが永遠に続く筈はないのに、私はどうしてもそう願ってしまうのだった。