6.スタンド・ゲーム

 ディオさんとジョースターの戦いは、まだ先の話になりそうだ。  ディオさんがスタンドを得てからまだ数週間ほどしか経っておらず、ジョジョさんの子孫についてはまだ分からないことも多いらしい。そして、奇妙なことだが、ジョセフ・ジョースターがスタンドを発現したのは、ディオさんがスタンドを得たから、ということだそうだ。つまり、ジョセフ・ジョースターもまだ、ディオさんについて詳しくは知らないはず。  双方調査中というところで、今すぐ戦いが行われることにはならないだろう。少なくとも私たちは、ジョセフ・ジョースターについて、ジョジョさんの孫である、ということしか知らない。  戦いがまだ行われないということは、チャンスだ。私にはまだ考える時間がある。  ディオさんも、できればジョースターのことも、死なせない方法を。彼らがひとりで傷つくことがないようにしたい。それが、私のエゴだったとしても。  ということで私は、自分のスタンド能力について研究することにした。まず、自分が何をできるか分からなければ、何もすることができない。 「だからと言って、何故わたしに声をかけたんです?」 「ディオさんが、一度ダービーと手合わせしてみるといい、と言っていたからですよ。私のスタンド能力の使い方を知りたいと言ったときに」  館の執事であるテレンス・D・ダービーの部屋にて、私はゲーム機とやらを眺める。こんなもの、私が生きた時代にはなかったが、これでどう私のスタンド能力を発揮すればいいというのか。 「なるほど……わたしのスタンドとナマエ様のスタンドで戦うことで、それぞれの能力の可能性を探ると、そういうことですね?」 「そうだと思います。館にいる者のスタンド能力を全て把握しているディオさんですから、何か考えがあるのでしょう」  ダービーはこちらをじっと見ていたが、やがて納得したらしく頷いた。 「ダービー。お互い、スタンド能力については他言無用です」 「それはもちろん承知しております。わたしがナマエ様のスタンド能力について吹聴したら、DIO様に首を吹っ飛ばされますよ」  約束は成立した。お互いの意思を確認し、しっかり頷く。  そして私たちは、テレビゲームを始めた。  百年前の世界を生きていた私は知らなかったのだが、今の世界にはテレビゲームというものが溢れているらしい。その中でなんとなく目についたので、F-MEGAというゲームの対戦を行うことにした。 「本来なら、賭けを行いたいところでしたが……やめておくことにしましょう。ナマエ様相手に『賭け』を行ったと聞いたら、DIO様が黙っていませんからね」  発売されたばかりのゲームということで、練習相手が欲しかったのだとダービーは言う。私はゲーム自体も初めてだったため、まずはダービーに指導を受けた。 「なるほど……やっていることは、この、自動車?を走らせてどちらが早くゴールに着くかという、シンプルなゲームですね」 「……まあ、その認識でいいでしょう」  車という存在も私にはよくわからなかったが、馬のない馬車のようなものかと思う。馬のない競馬のようなものだ。  ゲーム自体のコツは掴んできた。私自身人間をやめてしまったことで、身体能力は上がっているのだろう。生前の私がこんなに器用な真似ができたか、自信はない。  練習を続け、ある程度上達してきたので、私たちはいよいよ対戦を始めることにした。 「『賭け』はいたしませんが、お互いスタンドは使いましょう。それが本来の目的ですから。……お互いを、殺さないようにしながらね」  ダービーの言葉に、私は頷いた。そして、レースが始まった。  このゲームに、私の『姿が認知できなくなる能力』がどう使えるかは分からないが、練習試合のようなものだ。積極的に使っていこう。 「行きますよッ! 『アトゥム神』!」  ダービーこその号令と共に、レースが始まった。  まだ充分にやり込んでいないと言いつつ、ダービーのテクニックは本物だ。私の操作する機体にぶつけて妨害し、そしてずっと先へ進もうとする。  こうしてはいられない。私も、本気を出さなければ。 「『メルセゲル女神』ッ!」  そして私は、ダービーの視界から姿を消した。 「フフ……ナマエ様。それがあなたのスタンドですか? 姿を消す……という能力で、わたしのテクニックに勝てるとでも?」 「そうですね……私は、勝てるんじゃないかと思っていますよ」  思わず返答する。この状態では私の声がダービーに聞こえていないということは、分かっているけれど。  深呼吸して、そして集中した。コントローラーを持つ手の指で、高速でボタンを押していく。  テレビの中、やや前方を走っていたダービーの機体に、私の操る機体がスピンしてぶつかった。 「なッ!?」  ダービーはそれを全く予想できていなかったのか、機体の動きが乱れた。 「ナマエ様ッ! あなた、本当にこのゲーム初めてなんですよねッ!?」  質問に答えない。そんな暇もなかった。私の機体は体勢を立て直し、そのまま走り抜く。 「クソッ……どうなっているんだ? この俺が、手元を狂わされるなんてッ」  ダービーは焦ると口調が乱れるタイプらしい。だが、このゲームは一瞬のミス、そして精神状態が命取りだ。  私は、ダービーに勝ってしまった。  まだそこまでやり込んでいないと言いつつ、彼は自信があったらしい。私はスタンド能力を解除して姿を現し、ダービーに言う。 「ダービー……あなた、テレビの画面以外にも、見ていたものがありますよね」  今初めて私の存在に気がついたように、ダービーは呆然とこちらを見た。  私は言葉を続けた。 「それがあなたの、今回の敗因です。私が姿を消したことで、私の手元の動きが見えず、少々焦ったのでは? それと……もしかして、あなたのスタンド能力も、私には効かなかったのでは?」  しばらく黙っていたが、ダービーはやがて言った。 「……そうです。ナマエ様の手元が見えなかったこと、そして、わたしのスタンドがナマエ様に通じなかったことで、精神に乱れが出たみたいですね」  そして、ダービーはため息をついた。 「とはいえ、わたしのやり込み不足も事実でしょう。こんなことでは、いつか『お客様』を出迎える際に、命取りになる……」  となると、彼はもっとこのゲームをやり込むことになるのだろう。そうなったら恐らく誰にも勝ち目はないだろうなと、そう思った。 「ちなみに、ダービー。あなたのスタンド能力について、教えてくれますか?」  とりあえず、一番聞きたいことを聞く。それが、私のスタンド能力について知る第一歩だから。 「いいでしょう。ナマエ様、あなたは勝負に勝った……わたしのスタンド能力は、魂に触れる能力。わたしの質問したことには、あなたが声に出さなかったとしても、魂が絶対に答える能力です。魂は嘘をつけませんから」  曰く、彼の能力は、彼の質問に対しYESかNOで必ず答えさせる能力だそうだ。口ではなく、魂で。  ――しかし、姿を消している私の魂は、見えなかったようだ。だから彼の質問は、私には効かなかった。 「つまり……『メルセゲル』は、魂すら見えなくなる能力ということみたいですね。ディオさんはそれを知りたくて、私とダービーを戦わせたのでしょう……」 「ええ。ちなみに、ナマエ様がスタンドを使っていない際には、あなたの魂は私の質問に普通に答えてくれましたよ」  魂すら見えなくできる能力。つまりメルセゲル女神は、ほぼ完全に身を消せる能力であるらしい。  私は考え込んだ。この能力で、私の目的はどう果たせば良いのだろう。 「楽しそうなことをやっているじゃあないか。ナマエ、ダービー」  ふと声が聞こえ、私は考えを中断させた。声が聞こえてきた部屋の入り口付近を見れば、そこには私たちの主人が立っていた。 「あっ、ディオさん」 「DIO……様」  ダービーは緊張したように身体を硬直させた。その様子を見て思う。  私も百年前は、ディオさんに対してこんな反応をしていた気がする。自覚していなかったが、今の私はかなり、ディオさんに馴染んでいるのだろう。  ……今のわたしは、ディオさんに恐怖を抱いていないのだろうか、と。他人事のように思う。  否、もしかして。何か別の感情を、抱いている? 「テレビゲームか……このDIOが生まれた時代には、こんなものはなかった。ダービー、手合わせ願えるか?」  ディオさんは興味津々といった様子だ。ダービーは目を泳がせていたが、やがて恭しく礼をした。 「……DIO様、あなたがそれを望むのなら、なんなりと」 「フフ……ならば、『賭け』を行うか?」 「め、滅相もございません! DIO様相手に、賭けることはできませんよ!」  ダービーがさっきも言っていたが、『賭け』とは何なのだろうか? 何か、普通の意味ではない含みを感じたが。 「なんだ、つまらん……ならば、単にテレビゲームとやらで戯れてみるとするか。ナマエ、おまえもやれ」 「は、はい……」  予想外の展開だ。まさか私たちが、三人でテレビゲームをする日が来るとは思っていなかった。  私の能力について考えるのは後で良いだろう。そう思いながら、私たちは交代でゲームの対戦をし続けた。  ダービーは終始緊張していて、見ているこちらが気の毒になったことは、ここだけの話。