24.決戦の日

 決戦の日は、静かに始まった。 「ディオさん、お目覚めですか」  いつもと変わらない目覚め。だけど、ジョースターたちは――確実に、この館の近くに来ている。もう、今すぐにでも突入してしまうかもしれないくらいに。  だがディオさんは、落ち着いてこちらを見た。 「ナマエ。わたしの髪を梳け」  そして、彼はそう言うので、素直にそれに従う。  美しい金の髪に触れる。さらりと、いつもと同じ感触を感じる。  こんなことも、二人で穏やかに過ごす時間も、最後かもしれない。だけど、最後じゃありませんように。  ジョースターたちはもう、すぐそこに。 「ディオさん」  身支度を整えて、部屋を出るその前に。  私は静かに宣言した。 「私も、行かせてください。私も、あなたのために戦います。あなたを守るために」  最後の戦いに、私が出向くという宣言。  そして、彼の目をじっと見つめる。沈黙が息苦しい。  もしかしたら許可が降りないかもしれない。そう考え始めた、そのとき。 「――好きにしろ」  ディオさんは、ただそれだけ言った。 「テレンス、今の状況は?」 「ジョースターたちは六人、正確に言えば五人と一匹がこの館に近付いています。そうですね、まず彼らをふた手に分け、一方はこのわたしの『アトゥム神』をもって始末します。あとから来た者はヴァニラ・アイスに任せる予定です」 「そうですか……」  テレンスたちと合流した私は、彼らの計画を聞く。  概ね悪くない計画だと思う。私の目的にとっても。上手く、利用できればの話だが。 「お客様のおもてなしは、執事の――このダービーの仕事ですからね」  そしてテレンスは微笑んだ。その自信は、全く揺らいでいるようには見えない。  そんな彼に、私はこう告げた。 「テレンス。私は、ヴァニラ・アイスの援護をします」  本当は、手を組みたくなんてない相手だけれど。  それが、私にとって一番都合が良いから。 「……ナマエ様、おれはきさまの援護など受ける気はない」  私の言葉を聞いたヴァニラは、不服そうに言った。私となんて口も聞きたくない、という感じだ。 「それで構いませんよ、ヴァニラ・アイス。あなたはあなたで好きに動いてください。私のことは気にせず。私もディオさんのために、全力を尽くしますから」 「……チッ」  ヴァニラは舌打ちしたが、それ以上は結局何も言わなかった。お互い干渉はせず好きに動くということで、大丈夫そうだ。  ちなみに、ケニーGは話には入ってこなかった。館の部外者に対して幻覚を見せる以外の仕事はないのだから、当然なのかもしれない。じっと、こちらを見つめているだけだ。  そう。結局この作戦は、各々が好きに動くだけなのだ。  ケニーGが外部の者に幻覚を見せて惑わせ、テレンスが先に数人引き入れ、後の者はヴァニラと私がそれぞれ相手をする。  連携は取らず、行うことはそれだけ。  それぞれが好きに動くからこそ、そこに付け入る隙がある。 「ケニーG、頼みましたよ」  他の人に聞こえないように、私はそっと耳打ちする。  ケニーGは無表情のまま、ただ頷いた。  そして――ついに、そのときはやってきた。  といっても、先に彼らの相手をするのはテレンスなのだから、私は奥で待機していたが。  太陽が昇っているため、扉から日光の届く場所に、私は立つことができない。玄関より少し奥のところで、私は待つ。  こちらからは、はっきりとは確認できなかったが。テレンスが引き入れたのは、空条承太郎と、ジョセフ・ジョースターと、花京院典明のようだった。警戒しているのか、残りの三人はまだ突入して来ない。  モハメド・アヴドゥル、ジャン・ピエール=ポルナレフ、そしてイギー。  テレンスの方は、後でどうにでもなる。だけど。  もし、私が何もしなければ。このままだと、現在外で待機している三人が、ヴァニラ・アイスと対峙することになるだろう。  正直なところ。彼らのスタンド能力がどうであれ、ヴァニラ・アイスのスタンド能力はあまりにも桁違いで、犠牲を出さないというのは難しいと思う。  私は、彼らが誰も死ぬことなく、ディオさんの元に彼ら全員を連れていきたいと思っている。五人と一匹の、スタンド使いたちを。  だから。  ヴァニラより、先に。後から突入してきた三者に、私が先に接触する。  十分は経っただろうか。  ついに彼らは、扉を開けて、この館の中に突入した。  褐色のエジプト人、銀髪のフランス人、ボストンテリアの犬。私の姿を認めた彼らは、それぞれ、私のことを警戒しながら睨んでいる。 「こんにちは、アヴドゥルさん、ポルナレフさん、イギーさん」  入口のすぐ近く、太陽の光が当たらない場所に、私はいる。  彼らとヴァニラ・アイスを、引き合わせたりなんてしない。 「私は、ナマエと言います。少し、取り引きしませんか?」  彼らがケニーGを倒すことのないように、館の幻覚が解かれないうちに。上の階にいるヴァニラが、アヴドゥルとポルナレフとイギーと戦うことがないように。  私の目的は、私の計画は。これから果たされ、そして終わる。