決戦の日は、静かに始まった。 「ディオさん、お目覚めですか」 いつもと変わらない目覚め。だけど、ジョースターたちは――確実に、この館の近くに来ている。もう、今すぐにでも突入してしまうかもしれないくらいに。 だがディオさんは、落ち着いてこちらを見た。 「ナマエ。わたしの髪を梳け」 そして、彼はそう言うので、素直にそれに従う。 美しい金の髪に触れる。さらりと、いつもと同じ感触を感じる。 こんなことも、二人で穏やかに過ごす時間も、最後かもしれない。だけど、最後じゃありませんように。 ジョースターたちはもう、すぐそこに。 「ディオさん」 身支度を整えて、部屋を出るその前に。 私は静かに宣言した。 「私も、行かせてください。私も、あなたのために戦います。あなたを守るために」 最後の戦いに、私が出向くという宣言。 そして、彼の目をじっと見つめる。沈黙が息苦しい。 もしかしたら許可が降りないかもしれない。そう考え始めた、そのとき。 「――好きにしろ」 ディオさんは、ただそれだけ言った。 「テレンス、今の状況は?」 「ジョースターたちは六人、正確に言えば五人と一匹がこの館に近付いています。そうですね、まず彼らをふた手に分け、一方はこのわたしの『アトゥム神』をもって始末します。あとから来た者はヴァニラ・アイスに任せる予定です」 「そうですか……」 テレンスたちと合流した私は、彼らの計画を聞く。 概ね悪くない計画だと思う。私の目的にとっても。上手く、利用できればの話だが。 「お客様のおもてなしは、執事の――このダービーの仕事ですからね」 そしてテレンスは微笑んだ。その自信は、全く揺らいでいるようには見えない。 そんな彼に、私はこう告げた。 「テレンス。私は、ヴァニラ・アイスの援護をします」 本当は、手を組みたくなんてない相手だけれど。 それが、私にとって一番都合が良いから。 「……ナマエ様、おれはきさまの援護など受ける気はない」 私の言葉を聞いたヴァニラは、不服そうに言った。私となんて口も聞きたくない、という感じだ。 「それで構いませんよ、ヴァニラ・アイス。あなたはあなたで好きに動いてください。私のことは気にせず。私もディオさんのために、全力を尽くしますから」 「……チッ」 ヴァニラは舌打ちしたが、それ以上は結局何も言わなかった。お互い干渉はせず好きに動くということで、大丈夫そうだ。 ちなみに、ケニーGは話には入ってこなかった。館の部外者に対して幻覚を見せる以外の仕事はないのだから、当然なのかもしれない。じっと、こちらを見つめているだけだ。 そう。結局この作戦は、各々が好きに動くだけなのだ。 ケニーGが外部の者に幻覚を見せて惑わせ、テレンスが先に数人引き入れ、後の者はヴァニラと私がそれぞれ相手をする。 連携は取らず、行うことはそれだけ。 それぞれが好きに動くからこそ、そこに付け入る隙がある。 「ケニーG、頼みましたよ」 他の人に聞こえないように、私はそっと耳打ちする。 ケニーGは無表情のまま、ただ頷いた。 そして――ついに、そのときはやってきた。 といっても、先に彼らの相手をするのはテレンスなのだから、私は奥で待機していたが。 太陽が昇っているため、扉から日光の届く場所に、私は立つことができない。玄関より少し奥のところで、私は待つ。 こちらからは、はっきりとは確認できなかったが。テレンスが引き入れたのは、空条承太郎と、ジョセフ・ジョースターと、花京院典明のようだった。警戒しているのか、残りの三人はまだ突入して来ない。 モハメド・アヴドゥル、ジャン・ピエール=ポルナレフ、そしてイギー。 テレンスの方は、後でどうにでもなる。だけど。 もし、私が何もしなければ。このままだと、現在外で待機している三人が、ヴァニラ・アイスと対峙することになるだろう。 正直なところ。彼らのスタンド能力がどうであれ、ヴァニラ・アイスのスタンド能力はあまりにも桁違いで、犠牲を出さないというのは難しいと思う。 私は、彼らが誰も死ぬことなく、ディオさんの元に彼ら全員を連れていきたいと思っている。五人と一匹の、スタンド使いたちを。 だから。 ヴァニラより、先に。後から突入してきた三者に、私が先に接触する。 十分は経っただろうか。 ついに彼らは、扉を開けて、この館の中に突入した。 褐色のエジプト人、銀髪のフランス人、ボストンテリアの犬。私の姿を認めた彼らは、それぞれ、私のことを警戒しながら睨んでいる。 「こんにちは、アヴドゥルさん、ポルナレフさん、イギーさん」 入口のすぐ近く、太陽の光が当たらない場所に、私はいる。 彼らとヴァニラ・アイスを、引き合わせたりなんてしない。 「私は、ナマエと言います。少し、取り引きしませんか?」 彼らがケニーGを倒すことのないように、館の幻覚が解かれないうちに。上の階にいるヴァニラが、アヴドゥルとポルナレフとイギーと戦うことがないように。 私の目的は、私の計画は。これから果たされ、そして終わる。