20.戦いの始まり

「ジョナサンの子孫、ジョセフと承太郎。奴らが、このDIOの元に向かってきている」  念写された写真を見ながらディオさんは言う。  ジョジョさんの肉体との繋がりがあるために、ジョセフ・ジョースターと空条承太郎の動きはディオさんに筒抜けであるらしい。 「ジョセフの娘ホリィが倒れたことが、決定打だったようだ。奴らはそのために、命を投げ出す覚悟がある。フン……くだらんことだが」  ホリィ・ジョースター。  空条ホリィ、か。  ディオさんがジョジョさんの肉体を奪っているという事実。その血の繋がりが、空条ホリィに悪影響を与えているらしい。  空条ホリィは、ディオさんがスタンドを得た影響で発現したスタンドを制御できずに高熱に倒れ、もって五十日の命なのだと。 「そのために、ジョジョさんの子孫は……ディオさんを、倒そうとしている」  私は、できるだけ冷静に言葉を絞り出した。失いたくないジョジョさんの子孫たちが、失いたくないディオさんを倒す理由を。  母の、娘の、命を救うため。なるほど、彼らの立場としてはこの上なく明確な理由だ。――ディオさんを倒す、殺す理由。 「奴ら……肉の芽を埋め込んだ花京院も、対処して仲間に引き入れた……。肉の芽は、もう使えそうにないな」  曰く。ディオさんとジョースターの戦いを演出する火蓋を切った法王のカードは、ジョースターに味方することになった。  現在、『隠者の紫』ジョセフ・ジョースターと『星の白金』空条承太郎に加え、『魔術師の赤』モハメド・アヴドゥルというエジプト人の男性と、『法王の緑』の花京院典明という日本人の少年が、ディオさんを倒すためにこちらへ向かっているらしい。  このエジプトへ。  ジョセフ・ジョースターも、空条承太郎も、空条ホリィも。ジョジョさんの――ジョナサン・ジョースターの子孫だ。私は彼らの命を、失いたくない。  だがディオさんを殺さなければ、空条ホリィの命はない。あと五十日程度で、確実に死ぬ。ジョースターか、ディオさんか――本来ならば、そのどちらかしか選べない。それを選ぶのは私自身ではなく、運命なのかもしれないけど。  だけど。それでも私は、どちらも失いたくない。そのための方法を、考え続けている。  私の考えている方法で、本当に両方の命を失わずに済むことができるのか――それは、賭けでしかないのだけど。 「ナマエ、おまえは何を考えている?」 「……何を、とは?」  静かに決意していると、ディオさんはふと、私のことを見下ろしていた。圧迫感を覚えながらも、なるべく平然と彼の顔を見上げる。 「百年前のかつての主人の子孫たち。ナマエ、おまえはわたしのために、奴らを葬る――そう、覚悟。それがあるのか?」  ディオさんに、私の内心が見抜かれているのか。否、試されている? 「お忘れですか?」  私は微笑んだ。 「かつて私は、ジョジョさんの情報をあなたに渡しました。それは私が、ディオさんだけに仕えているからです」  嘘は言っていない。本当のことだ。百年前、ディオさんのためだけに仕えていた私は、ジョジョさんの死に関与した。  私はディオさんだけに仕えている。それも本当だ。私は彼の命を、本当に失いたくない。  ただ。ジョースターたちのことも、今では失いたくないというだけで。 「その言葉を忘れるなよ、ナマエ」  ディオさんはそう言い放った。優しいようで、どこか冷たさも感じられる口ぶりだった。 「おまえはこのDIOのために、その力を使うのだ」 「エンヤ婆」  それから。ディオさんの元から下がった私は、エンヤ婆の元へ向かった。  どうやら彼女が、ジョースターたちを始末するためのスタンド使いを派遣する、元締め的な役割を持っているらしい。 「私が派遣されることはありますか? ジョースターたちを倒す、ために」  一応、質問する。ディオさんはそのつもりがなさそうだったが、スタンド使いを派遣するエンヤ婆の考えも確認しておきたかった。 「安心しなされ。ナマエ様の手を、もちろんDIO様の手を煩わせることなどありませんですじゃ。ジョースター共は、わしが送り出したスタンド使いが、始末する手はずですじゃ」 「……そうですか」  そうなっては困るのだが。とはいえ、ジョースターたちが館に辿り着くまでの間は、私にできることはない。ジョジョさんの意思を継いだ、誇り高きジョースターたちが、無事に館に辿り着くことを祈るしかない……か。 「何か、気になることでもありましたじゃ?」  エンヤ婆は穏やかにそう言う。不安なことなど何もない、と言いたげな表情だ。  私は、嘘をつかない程度に答える。 「いえ。スタンド使いたちがジョースターたちを始末できずに館に来たら、どうなるか考えていまして」 「ナマエ様はそんなことを考える必要などない!」  すると彼女はカッと目を見開いた。その勢いに、思わずたじろく。 「DIO様は、ナマエ様は、そんなことに手を煩わせるべきではないのじゃ。責任を持って、わしは、にっくきジョースター共を始末させるのじゃッ」  執念深さを感じる老婆の瞳。その中にあるのは、DIOという存在がどのような人生を歩むのか見たいという、狂信的な光が宿っていた。  信じるしかない、か。エンヤ婆やディオさんには悪いが。  ジョジョさんの血を引くジョースターたちが、死ぬことなく、この館に辿り着くことを。  私の目的を果たすためには。ジョースターたちの協力が必要だ。  ジョースターたち――空条ホリィも。そしてディオさんも、どちらも死なせないためには。