星の見せた者

「承太郎、少し話があるんじゃが」 「……何だ」  旅の途中、自らの祖父に話しかけられた承太郎は、面倒臭そうに返事する。くだらない冗談を言うようなら切って捨てるつもりだったが、ジョセフは真剣そうな表情だったので、承太郎も真面目に話を聞くことに決めた。 「これを見てくれ」 「……? いつもの念写じゃあねえか」  ジョセフの『隠者の紫』には、いつもジョースター家の宿敵――DIOの姿が映る。もう旅をして一週間だ、今更念写から、何の新しい情報があると言うのだろうか。  気だるげに受け取った承太郎は、そして、僅かに目を見開いた。  その念写の中の数枚には、DIOだけでなく、一人の女がDIOの側に写っていた。 「承太郎。……この女が何者だと思う」 「単なる食糧じゃあねーのか?」  自分で言っておきながら、承太郎は不愉快な気分になり顔を顰めた。鬱陶しい女は嫌いだが、自分と同じ人間が、怪物の食糧となっている事実は気分のいいものではない。 「それならば、複数回念写に映ることもないじゃろう……一年前から何度も念写してきたが、この女は、何度もDIOの隣にいた」 「……何が言いてえ」  承太郎の質問に、ジョセフは一瞬黙り込む。そして、重々しく口を開いた。 「この女は……この世で唯一、百年前のDIOを知る女かもしれない」 「DIOが唯一、百年前の人物を蘇らせたと? ……ヤツが、そんなことをすると言いてえのか?」  吸血鬼が、死人を蘇らせることができることは、ジョセフから聞いて知っていた。だが、DIOがそんなことをするとは、承太郎にはどうしても思えなかった。先祖を殺し、先祖の身体を乗っ取った化け物が。  承太郎は改めて、その女の姿を見る。暗がりにあるため、表情はよく見えない。 「分からん。分からんが、可能性はあるんじゃ」  そしてジョセフは、自らの知ることを簡潔に承太郎に語った。百年前の、ジョナサンとディオの戦いを知る者――スピードワゴンという男から聞いたことだ。  曰く、百年前の戦いで、DIOは唯一、死なせなかった女がいたと。  何度もDIOの念写に映る女など、普通ではない。もしかしたら、その女が蘇り、DIOの側にいるのかもしれない、と。 「……そこまで重要なDIOの側近なら、ヤツのスタンド能力を知っているかもしれねえな」  そして承太郎もまた、簡潔に自らの考えを述べる。  本当に彼女が、百年前の女か否かは定かではないが――少なくとも、一年前から念写に映るような女ならば。本当にDIOに近しい存在ならば、重大な情報を握っているかもしれない、と。 「ああ。その女が刺客として襲ってくるなら、わしらはできれば、彼女から情報を聞き出したい」 「……もし、本当に百年前の女なら、DIOと同じく吸血鬼の身体になっているだろう……やれやれ、夜になっても気が抜けねーってところか」 「その通りじゃ。用心しろ、承太郎」  件の女が、情報を握っている可能性。襲ってくる可能性。百年前の因縁――  やれやれ、と、承太郎は息を吐いた。 「DIOの側にいる女……一体何者なんだ……?」  ジョセフとの会話を終え、承太郎は念写を目にしながら、独り呟いた。  自らの祖父、ジョセフの念写にDIOの姿が映るという理由。それはDIOの肉体が、祖先ジョナサンの肉体であるからだ。血縁という絆があるからだ。  ならば、ジョナサン・ジョースターの身体は、子孫である自分たちに何を伝えようとしているのだろう。DIOと、その女の姿を子孫に見せ、何を求めているのだろう。  百年前、彼らはどのような生活をしていたのだろうか――  一瞬だけ想像して、承太郎はすぐにその思考を断った。DIOは自らの先祖のジョナサンの身体を奪った、自分の母のホリィに悪影響を与え、周りの人間も喰らい続ける化け物だ。倒さなければ、ならない存在だ。  それでも、その女の念写はただ、そこに佇んでいた。  何かを求めるように。何かを伝えるように。

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