「スピードワゴン財団?」 それからしばらく経ったある日。ディオさんから聞かされたその組織の名前に、思わず私は呆然としてしまった。 「そうだ」 ディオさんは淡々と、しかしどこか不機嫌そうに頷く。 「あのとき、ジョナサンと共に行動していた、波紋も使えない男が作った財団が……今では、ジョースターの末裔と協力しているようだ」 「……スピードワゴン、さん」 懐かしい名だ。今になって、その名を聞く日が来るとは思っていなかった。 彼は、ジョジョさんの意思を継いだのだろう。そしてジョジョさんの子孫たちを、今も手助けしている。この情報だけでも、尊敬に値する男だと、そう思う。 私に怒りを見せたスピードワゴンさん。私の行く末を案じた、スピードワゴンさんが。 「スピードワゴン財団の下っ端が、このDIOのことを嗅ぎ回っていたようだが……部下に捕えさせて、情報を吐かせた。ジョースター共のな」 そして、ディオさんは写真を手に取った。例の念写だろう。どこかの街中で、老夫婦が歩いている。 「ジョセフ・ジョースターはジョナサンの孫だ。不動産王として世間では有名なようだな。妻の名はスージーQ・ジョースター、イタリア人。ジョセフの娘は日本人のところへ嫁ぎ、日本で暮らしているらしい」 「ジョジョさんの末裔が、日本に」 「そしてこれが、ジョセフ・ジョースターの娘と孫だ。感覚で分かる……」 もう一枚の念写には、金髪の女性と、まだ十代と思われる男性の姿が写っていた。親子であるらしい。 「この人が……ジョジョさんの、末裔……」 ジョナサンの孫である、ジョセフの孫。そのジョセフの孫である、ジョジョさんの末裔は、ジョナサン・ジョースターに、よく似た顔立ちだ。 百年前のことを思い出す。ジョジョさんと、ディオさんの戦いを。 ――戦いの予感がする。ジョースターか、ディオさんか、どちらかが死ぬ。そんな予感が。 「ディオさんは……ジョジョさんの子孫たちを、倒しに行くのですか?」 彼らの顔は割れた。もしかしたら、もう戦いが始まってしまうのかもしれない。恐る恐る、私は問いかける。 「身体が馴染むまでは……わたしのスタンド能力を使いこなせるようになるまでは……わたしは、動かないつもりでいる。ジョセフ・ジョースターも、まだ動くつもりはないようだしな……」 「そう、ですよね」 この答えに思わず安堵した。ディオさんが今すぐジョースターたちを倒すとなれば、私に止める術はない。 私は、写真を再び手に取った。ディオさんがスタンドを得たことで、ジョセフ・ジョースターはスタンドを手に入れたらしいと聞いたが、この親子もスタンド使いとなったのだろうか? ジョセフの娘は、見るからにおっとりしてそうで、とてもディオさんを倒せそうにはない。 だが、末裔の男は――若いが、ジョジョさん譲りの体格の良さがある。若いからこそ、もしかしたら、ディオさんのことも倒せてしまうかもしれない。ジョジョさんが吸血鬼になったばかりのディオさんを倒したのだって、彼が二十歳の時であった。 「ジョジョさんの、末裔……」 ジョセフ・ジョースターもジョジョさんによく似ていたが、末裔の男はさらに似ているようにも見えた。ジョジョさんよりも気性が荒そうだが、それでも。彼はさらに、ジョナサン・ジョースターのことを思い出させる男であった。 「一年だ」 ディオさんが口を開いたので、私は顔を上げる。彼はニヤリと笑いながら、その言葉を吐き出した。 「一年以内に動く。それまでに、ジョースター共の情報を手に入れる。それから――ジョースター共がわたしを倒すことを決める前には、ヤツらを始末してやるさ」 「一年……」 つまり、まだ時間はある。少なくとも、計画を立てる時間くらいは。 「協力してくれるな? ナマエ」 人を誑かすような甘みを帯びた声色で、ディオさんは口を開く。――当然、ディオさんは、ジョースター家を倒す手助けのために私を蘇らせたのだ。だから彼は、私にその情報を開示している。 「……はい。ディオさんのためなら」 そして、私は。本心だったが、嘘と言ったほうが正しい言葉で頷いた。私はディオさんのためにも、ジョースターのためにもなる動き方をするつもりなのだから。 それは、私のただのエゴかもしれないけど。 ディオさんは気付いているのだろうか。私がこの館に来てから二ヶ月と少し。今日は一九八八年の二月七日。ジョジョさんが死亡してしまってから、ディオさんが海の底に沈んでから、ちょうど九十九年だ。人間だった頃の私が、仕えるべき主人とかつての主人の両方を失った日なのだ。 かつての私のことを思い出し、自らを奮い立たせる。もう二度と、あの時の気持ちを味わないように。 一年。戦いまで一年ある。 それまでに、私は――考えよう。ジョジョさんの子孫もディオさんも、死なせない方法を。 私はもう。どちらも失わない。