8.契約条件

「――条件は?」  永遠に仕えないか。主人だった人にそう言われた私は、反射的にそう返していた。 「仕えろと言うのなら、条件を教えてください。私の仕事はなんでしょう。そして、報酬は? それが分からなければ、受けることはできません」  意外なほど、冷静な言葉が出てきたことに自分で驚く。  だが、それも当然だ。私はあくまで、使用人。使用人として生きている。それは、使用人としての誇りがあるということなのだ。  仕事内容も報酬も分からないのに、人に仕えることはできない。  それを言っている相手がたとえ、かつての主人だったとしても。彼がたとえ、人間ではなくなってしまったとしても。彼に対し、心から恐怖していたとしても。  私が使用人として生きていることは、変わらないのだから。 「そうだなァ」  ディオさんは少々、考え込むような素振りを見せた。私の返答が彼にとって想定内だったのか、想定外だったのか、それはよくわからなかった。 「君の仕事は、この館を掃除すること。そして、このディオが望んだときに紅茶を淹れること。主な仕事は、このふたつだけでいい」  館の掃除に、紅茶を淹れること。仕事内容自体はジョースター邸に勤めていた頃とそう変わらないと、冷静になろうと努める。 「そして報酬は……ナマエ。君は永遠を望みたいと、そうは思わないか?」 「永遠、ですか」  その言葉には驚いた。報酬はジョースター邸に勤めていたときと全く違うと、そう思った。  私は顔を上げる。ディオさんのその鋭い瞳を、じっと見る。  永遠の命。それを与えることができると、彼は言う。  きっとこの男は、この先も死ぬことはない。火事で焼け死ぬことすらしなかったから。  今は火傷で顔の美しさは見えなかったが、それでも、彼の傷跡はすぐに癒されることになるのだろう。そしてディオさんは、あの恐ろしいほどの美しさを持ちながら、永遠を生きることになるのだろう。  なら、私はどうだろう。永遠を生きたいと、本当に思っているのだろうか。  少し考えて、率直に思った。――そんな欲求は、私の中にはないと。  私は。人間として、使用人として、人に仕えることに誇りを持っている。 「私には必要だと思いません。あなたのその姿は、美しいのでしょうが、人間をやめてしまえば人間に戻れなくなってしまいます。そのリスクを負いながら、今すぐ決める必要はないと思います」  だから私は、素直にそう言った。永遠を生きること。永遠に生きながら、永遠に彼に仕えること。その人生を歩もうとは、私には思えなかった。そんな人生は使用人ではなく、下僕だ。私の望んだ生き方ではない。 「……では、君は何を望む?」  ディオさんは私の言葉に納得したのだろうか。それは分からない。だが、静かな彼の言葉に、私ははっきり答える。 「私の仕事に見合うだけの、お給料。生涯をあなたに仕えろと言うのなら、生涯を暮らしていけるだけのお給料は欲しいです。一生を生きていけるだけの食事代と、少しのお休み。そして、私の身の安全も保障してほしいです」  危害が与えられないこと。私が生きていけるだけのお金が貰えること。報酬としては、それだけで良い。  逆に言えば、それが保障されない限りは決して、私は彼に仕えることはできない。 「オーケーオーケー……ナマエ、君は変わらないな。このディオに恐怖しながらも、使用人としての使命は全うしようとする」  ディオさんは満足そうに笑う。本当に満足しているのか否か、そもそも彼が、館の掃除はともかく、本当に私の紅茶を望んでいたのだろうか。それは分からないけれど。 「いいだろう、ナマエ。契約内容はこれで成立した。その上で、どうだ? 君は、このディオに仕えるか?」  ディオさんに仕える際の条件は示された。ジョジョさんに仕える際の条件は、彼が目覚めない限りは分からない。  この状態で、私は――かつての主人のうち、どちらかに仕えることを決めなければならない。  そして、選択が迫られた。