奇妙なプロポーズ

▼シュガー・マウンテン戦ネタ 「なあナマエ。ぼくと結婚しないか?」 「――はい?」  レース中の、ある日のこと。休憩も兼ねて町を歩いていたとき、たまたま出会ったジョニィ・ジョースターとジャイロ・ツェペリに軽く挨拶でもしようと思ったら。  ジョニィからプロポーズされた。  ……一体何が起きたのか、即座には理解できなかった。 「おいジョニィバカやめろッ! そんな重いもん持ち歩いてられねーって言ったろーが!」  ジャイロがジョニィに叫んだが、どうにも失礼なことを言われている気がしてならない。  だが今問題なのはジョニィだ。レースでは、時々情報交換したり、会話することもある相手だけど――プロポーズをされる様な仲では決してない。……と、思う。 「……ジョニィ・ジョースター。その、意味が分からないんだけど」 「なら、とびきり高い指輪をあげるからさ――いや、駄目だッ! 今のナシ! スゴい勢いで木が迫ってくるぞォーッ!」  何をやっているんだろう、彼は。混乱している私に、ジョニィは一方的にこう言い放った。 「ああ、クソッ、駄目か……悪いナマエ。後で説明する。事情があるんだ」 「は、はあ……?」  そしてジョニィとジャイロの二人は去ってしまった。唐突にプロポーズされて放置された私は、状況も理解できず、ただ呆然としながらその場に立ちすくんでいた。  結婚、なんて。考えたこともなかった。馬で走ることが大好きなじゃじゃ馬娘を貰ってくれる人がいるなんて、思ってもいなかったし、必要ないとも思っていた。  SBRレースに出たのは、一人でも生きていける自分を証明するため。口うるさい周囲を黙らせるためだ。  なら、今のプロポーズは何だ?  彼にプロポーズされて生まれたこの気持ちは一体、なんだと言うのか?  分からない。分からないが私は、このレースに戻ることにする。  スティール・ボール・ラン。私はこのレースに自分の人生を賭けている。  その後のことを考えるのは――全てが終わってからで、構わない。そう思った。 「……で、ジョニィ。私――まだ、『説明』とやらを聞いてないんだけど?」  そして、レース終了後。死者も怪我人も多く出たこのレースで、私は、なんとか無事にゴールまで辿り着いた。順位は下の方だったため賞金は得られなかったが、上出来だろう。女性がSBRレースにゴールしたというだけで、かなりの名誉のはずだ。帰りの船の上で、私は、ジョニィと向き合っていた。 「あー」  対してジョニィは、ゴールまでは辿り着いたが、失格で終わってしまったようだったけど。だが彼の表情は晴れやかだった。  全てが終わった。だから今が、その『説明』を聞くときで、今後を考えるべき日だろう。あれ以来私はジョニィと話す機会もなく、『後で説明する』という彼の言葉は、今の今まで果たされたことがなかったのだ。  口ごもるジョニィのことをじっと見る。すると彼は、観念したように話し始めた。 「分かった分かった、話すよ! その……あの時のぼくたちは、試練を受けててさ。簡単に言えば、大量に手にした財産を、日没までに全て使い切らなければならなかったんだ」  ……言いたいことはいろいろある。その試練は何なのか、とか、何故そんなに大量に財産を手にしたのか、とか。もし使い切らなければどうなっていたのか、とか。  だが、今聞きたいことはそれではない。一番の疑問を、私は投げかけた。 「それが、何がどうやって私へのプロポーズに繋がるの?」 「え? 結婚後即離婚慰謝料だけど」 「え?」  当然だろ、と言わんばかりの彼の表情に、思わず面食らってしまった。一瞬、何を言われているのか分からなかったのだ。  その後。私は思わず吹き出していた。 「……あははっ! それはまた、すごいこと言うね! そりゃあジャイロも『そんな重いもん持ってられねー』なんて言うはずだよ」  まさか、大量の財産を使い切る手段に慰謝料を選ぶなんて。結婚と離婚、確かに一時の試練のために得るには重たい縁だろう。よくそんな理由でプロポーズなんて決行しようとしたものだ。あの言葉に動揺させられたあの時の自分が、今にして思えば馬鹿らしく感じる。 「仕方ないだろ、あの時は必死だったんだから……まあ、悪かったよ。ナマエの気持ちを考える余裕なんてなかった。迷惑だっただろ」  ジョニィが珍しく殊勝だ。レース中の緊張感から解き放たれて、少し冷静になったのだろうか?  とはいえ。別に、そこまで謝られることでもないかな、とも思ったけど。 「……私、プロポーズ自体は嫌じゃなかったよ? もちろん、即離婚即慰謝料、ってされたら怒っただろうけど。……って。あはは、やっぱり重いかな」  嫌じゃなかった、どころか。……あのときは確かに嬉しかったと言ったら、彼はどう思うだろう。離婚と慰謝料目当て(奇妙なことだが、普通とは逆の意味だ)の一度のプロポーズでここまで思ってしまう私は、確かに重いのかも。ジャイロの言っていたことは、あの時は失礼だと思ったが、的を射ている。 「いや、ぼくだって」  気まずそうに、ジョニィは口を開いた。 「さすがに知らない人にプロポーズして即離婚するっていう重さを引きずる気は無かったよ。少なからず知っているナマエ、君だからこそ、持ちかけたんだ」  思わず目を瞬かせてしまった。  それって、つまり――どういうことだ? 「えっ、じゃあ結婚する?」 「……今のぼくに、慰謝料を払う金なんてないけど」 「離婚前提!?」  大げさに言ってしまう。その後、少しの沈黙。  そして。私たちは顔を見合わせて笑った。  軽く発せられたプロポーズが、こんなことになるなんて。ジョニィも考えていなかっただろう。  それでも。この奇妙な縁が、私たちのゼロからプラスに繋がっていくかもしれない、なんて。  だから私たちの旅は、まだ終わらないのだろう。私はただ、そう思った。  レースの終わり。それぞれがそれぞれの想いを背負って、故郷に帰るだろう。  その後。奇妙に結ばれた縁によって、同じ道を歩むこともあるのかもしれない。  ――なあナマエ。ぼくと結婚しないか?  喜んで、と言えば、ジョニィは一体どうしただろう。  あの時の言葉を思い出しながら、私はジョニィの隣で、地平線を眺めていた。

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