私の熱

「へ――ッ。まさかナマエがなぁ……」 「お、お願いミスタ。絶対ナランチャには言わないで!」 「言わねーよ。折角面白そうなことになってるんだから、あんまり首を突っ込むのも損だろうしよ――」  ミスタのこの言葉に頭を抱えた。嗚呼、なんてこと! うちのチームの中で、一番秘密を知られたくないのは間違いなくミスタだろう。他のみんなにバレても「内緒にして!」と言えば確実に内緒にしてくれるだろう、という安心感があるが、ミスタは怪しい。仮にミスタが秘密を守ったとしても、ピストルズがバラしてしまう可能性もある。つまり、7人にバレてしまったことと等しい。  嗚呼、もう! なんで、よりによってミスタに、ナランチャが好きなことバレちゃったかなあ! 「じゃあナマエ、これやっておいてくれ」 「これ……って、ミスタの仕事じゃない……しかもナ、ナランチャとの仕事だし」  私が頬をひきつらせながら尋ねると、ミスタは何でもないことのように言う。 「いいじゃあねーか。ナマエはナランチャと仕事ができる。オレは仕事をサボれる。どうせナマエ、午後は暇だろ? オレがやってもいいけど……それだったら、オレはナマエがナランチャのことを好きってことバラすな」 「拒否権がないじゃない……」  私は半分べそをかきながら、違う部屋にいるナランチャのもとへ向かった。  ナランチャはその時、フーゴと勉強していたらしい。 「お、お疲れー。勉強、進んでる?」 「ああ、やっと七の段を言えるようになったぜ!」 「七の段はまだ間違えていますから、正確には六の段までですね。でも、確実に力がついてきています」  嬉しそうに報告してくるナランチャ。良いところを見つけて誉めるフーゴ。この風景を微笑ましく思いつつも、ナランチャの笑顔を一人の男として見てどきりと胸が高鳴っているのを感じる。……もう、三つも下の男の子に……しかも、かなり子供っぽい男の子に。どうして惚れてしまったのだろう。 「ナマエ、仕事ですか? それならそろそろぼくは席を外しますが」 「ん、そうね。……ナランチャ、と仕事するの。ミスタに押しつけられちゃって」  はあ、と知らず知らずのうちため息をついていたらしい。フーゴは少し同情するような顔を向けて、 「まあ、……頑張ってください。ぼくは休憩してきます」  そう言って、部屋から出ていってしまった。部屋に二人きり、という状況下で、私はかなり緊張してしまっている。 「で、ナマエ。仕事ってなんだ?」 「ああ、それはね――」  仕事も一段落したところで、私たちは一旦休憩をとる。仕事モードに入れれば基本的にナランチャのことを『仕事仲間』としか見なくなるので、かなり気分的には楽だ。仕事相手にわざわざ緊張してたら、身が持たないでしょう?  飲み物買ってくるね、何がいい? と聞くと、すかさずオレンジジュース! と返された。このチョイスが子供らしくて、とてもかわいく思ってしまい、つい頬が緩む。今の私はナランチャを好きな相手として見てるなあ、と苦笑した。  自動販売機へ向かうと、ミスタがいた。ミスタはニヤケ顔でこっちを見てくるので、思わずゲ、と呟いてしまう。 「よう、ナマエ。どうだ? 順調か?」  ニヤニヤした笑いをこちらに向けるので、思わずイラッときて反論した。 「別に。私、公私混同するほど愚かではないつもり。仕事してる間に下心を持って仕事仲間に接したりしないわ」  ミスタはそれを聞いて、わざとらしく考える素振りを見せた。そして言う。 「ほ――。そうかいそうかい。それなら安心だ。オレはナマエが、仕事中もそいつのことを考えて考えて、仕事が手につかなくなるんじゃあねーかって心配してたんだぜ?」 「余計なお世話。そんなの、好きな相手に対しても失礼よ」  いいからそこどいて、ジュースが買えないじゃない、と言おうとしたところで、ミスタからとんでもないことを言い始めた。 「だってさ! 心配しなくていいぜェ――ナランチャ」  え? と思考が一瞬止まる。恐る恐る後ろを振り向くと、そこには私の好きな人……ナランチャ・ギルガがそこにいた。 「え、な、ナランチャ、いつからそこに!?」  頭が真っ白になって、どうすればいいかがわからない。部屋で待ってて、って言ったのに、なんで? 「いやァ――……最近ナマエ、ぼんやりしてるように見えたから心配だったんだよォ。話しかけても上の空に見えたし。でも、ナマエが大丈夫って言うなら大丈夫だな!」  ナランチャが眩しいくらいの笑顔を向け、私はたちまち大丈夫ではなくなる。というか、ナランチャに私の気持ちがバレた!? と頭を抱える。ミスタはニヤニヤとことの顛末を見ているだけだし、もう最悪! 私、これからナランチャとどう接すればいいの!?  呆然としている私に、ナランチャは対して気にした素振りもなく言った。 「……で、ナマエの好きな人って、一体誰なんだ? ブチャラティか?」  ……ん? んん? 「……え、なんでブチャラティが出てくるの?」 「ええ、違うのかよ? ナマエが最近ぼーっとしているのは好きな人のせいだって言うから……誰かなァ――って思って。まあ言いたくねーなら無理に言う必要はねーよ」  ナランチャが言ったことを数回頭で反芻し、ミスタとの会話を思い浮かべて……ああ、と納得した。  私、ミスタとの会話の中でナランチャの名前、出してなかった。 「よかったァ――……」  思わずへなへなと崩れ落ちる。 「おい!? 大丈夫かナマエ!? やっぱり最近変だぞ!?」  本気で心配してくれるナランチャ。熱でもあるのか? となんの下心もなく素でおでこ同士をぶつけあい、熱はなさそうだな、と呟く。やめて、熱があがる。 「ごめんね、本当になんでもないの……。今日はちょっと休むわ」  それがいい、ゆっくり休めよ、とナランチャは本当に心配してくれた。それが嬉しくて、思わずにやけてしまう。後でナランチャに何かお礼してあげようかな。  あと、そこで滅茶苦茶に笑いながら一連の出来事を見ているだけのミスタ。なんだかかなりムカついたから、後で四発殴っておこう。うん。それがいい。

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