▼ブチャラティ誕生日ネタ/※夢主が重い 「ブチャラティ、遅いなあ……」 今日は、私が密かに片想いしているブチャラティの誕生日。だからめいっぱいおめかしして、誕生日プレゼントも頑張って用意した。だけど。 「ブチャラティにとっては、自分の誕生日なんてそんなに重要な出来事じゃあないんだよね、きっと……」 今日、ブチャラティは仕事で家にいなかった。明るいうちには帰ってくるだろう、とこっそり彼の家の前で待っていたのだが、いつの間にか夜になってしまっていたのだ。 「……もう。明るいうちならともかく、こんな夜遅くに人の家の前で待っているなんて、ちょっと重い女みたいじゃない……」 もしかしたらブチャラティは、仕事が終わった後、彼のチームの仲間に祝われているのかもしれない。当たり前だけど、彼はみんなに慕われている。彼を祝いたいのは私だけではないと言うのに、ブチャラティの誕生日というだけで浮かれていた私は、そのことをすっかり忘れていた。 「……もう、帰っちゃおうかな」 私もブチャラティのチームに入りたかったな、なんて思ってしまう。どうせ、ギャング『パッショーネ』の一員になるんだったら。ブチャラティに何故か突っかかるリーダーがいるチームじゃなくて、ブチャラティのチームに入りたかった。まあ別に、私の属しているチームのみんなのことが嫌い、ってわけでもないけど。 自分の腕時計を見たらもう、いつの間にか午後二十三時半。仕事終わりから六時間も待っていたなんて、我ながら重い、と苦笑した。 もう、ブチャラティの誕生日はあと三十分で終わってしまう。この調子だったらきっと、彼が帰ってくるのは日付が変わった頃だろう。――それならもう、誕生日を祝う意味がない。帰ってしまおうか? 彼と最初に出会ったのはいつだったか。彼と最初に話したのはいつだったか。自分のチームのメンバーだけでなくよそのチームにいる私のことも、それだけではなく街の皆に優しくしているブチャラティのことが好きになったのは、いつだったか。 昔のことをちょっとだけ思い出して、なぜだか少し、泣けてきた。 ああ。ブチャラティの誕生日、祝いたかったなあ。彼に、いつもありがとう、って言いたかったなあ。 「――ナマエ?」 その時、聞きなれた声に名前を呼ばれた。はっ、と振り向くと、黒くつややかな髪を真っ直ぐに切りそろえた凛々しい男が、困惑した表情で私の方を見ていた。トクン、と心臓が跳ね上がる。 「……ブチャラティ! えっと、うーんと! た、誕生日……お、おめでとう!」 取り繕うのも忘れて、ただ慌ててそう笑ってしまう。こんな時間に家の前で待っているなんて、重いと思われても仕方がない。――それでもいい、と思ってしまった。彼の誕生日を祝えて良かった、とただ嬉しかった。 そしてブチャラティは状況を呑み込んだかと思うと、私の方に近づいてきた。 「ナマエ、まさか君……ずっとここで待っていたのか?」 「ず、ずっとじゃないよ! たまたま、ブチャラティの誕生日だってことを思い出して、さっき家を訪ねてみたら留守だったから、少し待ってただけだよ」 少し嘘をついてしまったが、ブチャラティにとってはそこはどうでもいいようだった。ただ――彼は、本気で心配していたし、本気で怒っていた。 「ナマエッ! 年頃の女がこんな夜中にひとりで出歩くんじゃあない! 変なヤツに襲われでもしたらどーすんだッ!」 彼がそう怒ってくれたことに、ただ驚く。なんとブチャラティは、人の家の前で勝手に待ち伏せしてたことには怒らず、ただ私の身を心配しているのだ。少しの後ろめたさと、沢山の喜びが私の中を駆け巡った。 「……ごめんなさい。でも、ギャングの女をそうやって心配してくれるのなんて、ブチャラティだけだよ」 「…………分かればいい」 はあ、とブチャラティはため息をついた。その様子を見てもう一度、ごめんなさい、と言う。 「……家まで送っていく。ナマエの家、こっちだったよな?」 「そんな。悪いよ!」 「遠慮するな。たとえギャングの女だろうと、君みたいなやつを一人で出歩かせるのは、男として良くないからな」 「……ありがとう。ごめんね」 「礼はいらない」 そう言ってブチャラティは歩き出してしまったので、私は慌てて彼の隣を歩く。ブチャラティにそんな下心がないことくらいは分かっているけど、二人しかいないこの空間にいることが、とにかく幸せだった。 「あ、忘れてた。ブチャラティ、これ誕生日プレゼント!」 私はカバンの中から包装したプレゼントを取り出す。危ない危ない、プレゼントを渡す前に彼の誕生日が終わってしまうところだった。 「……? これは、なんだ?」 「いいから、開けてみて!」 ブチャラティは少し怪訝そうな表情を見せたが、素直に包装を解いた。そして、少し目を見開く。 「これは……腕時計か」 ブチャラティの表情は読み取れない。何とも言えないその顔を見て、もしかして失敗だったか、と少し焦る。 「え、えっとね! ブチャラティ、あなたこの間抗争に巻き込まれて、その腕時計を少し傷つけてしまったみたいでしょ? あなたのチームの人がその時計のこと、使えなくはないけど、時間を読みづらそうって言ってたから……。あ、もう新しいのを他の人に貰ってたり、買ってたらごめんね!? 気に入らなければ他の人に――」 「ナマエ」 長々と言い訳じみたことを述べていると、ブチャラティに遮られた。ぴたっ、と思わず口を止めてしまう。 「ありがとう。大切に使わせてもらう」 そう言ったブチャラティは、確かに笑っていた。滅多に見る機会のない彼の笑顔に、思わず息が止まる。 「どう、いたしまして……」 暗いからよくわからないかもしれないけれど、確かに私の顔は真っ赤だっただろう。ブチャラティが笑顔で、私のプレゼントを喜んでくれたというなら――これ以上ない幸せだ。 二人は暫く、無言で歩いていた。 けれどその空気には、気まずさなんてものは含まれていなかった。ただただ、彼の隣にいれることに幸福を感じていた。 「――ナマエの家は、ここでいいんだよな?」 「……そうだよ。ありがとう、ブチャラティ」 永遠に続けばいいのに、と思える幸せにだって、終わりは訪れる。かなり名残惜しい気持ちになって、未練がましく自分の家へと向かった。 「じゃあ、オレは帰る。ナマエ、もう夜中に無闇に出歩くんじゃあないぞ。それじゃあな」 「待って!」 思わず引き止めてしまった。帰ろうとしていたブチャラティは、少し驚いた様子で振り返る。 私は今、何を言おうとして引き止めてしまったのだろうか。ただ、一緒にいたかっただけだった。それを、今の気持ちと一緒に、彼に告白してしまいたかった。……だけど。 「……ありがとう、ブチャラティ。心配かけてごめんね」 「……謝るな。それに、礼を言うのはオレのほうだ」 「そっか。じゃあ、また今度ね。アリーヴェデルチ」 「……ああ。アリーヴェデルチ」 結局、私はそう言ってブチャラティのことを見送った。好きな人の誕生日に告白なんて、彼が同じ気持ちならばロマンチックかもしれないけれど――そうでなければ? 結局私は、怖かったのだった。けど、今はこのままでいい気がする。今の私は、ただそう思っていた。 さっきから鳴り響く心臓の鼓動と、顔の熱が落ち着いたところで、ようやく自分の部屋へと入る。 自分の腕時計を見たら、日付が変わって五分経っていたところだった。自分の腕時計を外すことはせずに、私は幸せな眠りに落ちていった。
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