※原作通りの死ネタ/軽い妊娠表現 「ヴァニラのことは蘇らせるんですね」 そう言いながら、私はシーツから顔を出す。私がDIO様とベッドを共にすることや、私がDIO様の隣で眠っている間に彼の部下が訪れること自体はよくあることだが――彼の部下が自ら首を跳ねた瞬間には、流石に初めて遭遇した。そして、DIO様がそのヴァニラを蘇らせた瞬間も。彼はドアを開けずに、壁に穴を空けて出ていってしまったが。 「……何のことだ?」 そう言いながら、DIO様は私の髪を撫でてみせる。私は肩をすくめ、そして呟くように言った。 「私が死んでも、あなたは私を蘇らせないでしょう、と言いたいんです」 DIO様は表情を変えなかった。 それでも、その瞳の中に冷たいものがあるような、そんな気がした。 私の役目はなんだろう。彼のために戦うわけではない。血を吸われたこともない。人ではない身にされたこともない。……今のところ。 DIO様と、寝るだけ。そんな女、他に代わりなんていくらでもいる。ならば、たとえ私が死んだとして、彼は蘇らせることはないだろう。 私にとってのDIO様は、たったひとりしかいないのに。 「多くの部下が死んでいっても、使える人材だと言っておいても、それでもあなたは蘇らせないでしょう」 責めるような口調になってしまったが、責めているつもりはなかった。事実を言っているだけだ。 「そうだな。あのまま死なせるには惜しい人材は、確かに多くいた。わざわざわたしが出向くことがなくても、奴らの死体がこの館に戻ってきたのなら、わたしは部下たちを蘇らせたかもしれない」 「……でも、あなたは、死んだ部下たちの死体を回収させようとはしないじゃないですか」 「死体の回収に人材を割くくらいなら、ジョースター共を一人でも多く始末してほしいからな」 DIO様は相変わらず表情を変えない。 彼は、滅多なことでは死んだ部下を蘇らせない。それどころか、側近のようでもあったエンヤ婆を、裏切りを懸念して積極的に始末したことさえある。 それなら、私がたとえ死んでも私は蘇らないのだろう。私だって、DIO様とともに永遠を過ごしたいのに、きっと彼は、それを許さない。 私はいつまでこうしていられるのだろう。DIO様と共に過ごせるのだろう。いつか、この日がなくなること、私はそれだけを恐れていた。 「わたしと同じ身体にすることは、リスクがあるのだよ。……ナマエ。君のこともだ」 そう言って、彼は冷たい手で私の頬に触れる。大きい手。だが、この世のものではないような、そんな気がする。 「石仮面を被った、真の吸血鬼になることは、このDIOだけの特権だ。……ヴァニラ・アイスを吸血鬼にすることはリスクがあった。人間ほど脆くはないが、わたしほど再生能力があるわけではない――アイスのスタンドは強力だ。これが吉と出ればいいが」 とはいえ、あまり強く期待はしてなさそうである。ヴァニラが、ジョースターたちを全員始末できるとは思っていなさそうだ。 「わたしは、君を人間のままにしておきたい。……そう言えば、ナマエ、君は納得するのかな?」 そう言って、彼は妖しく微笑んだ。口元からちらり、と鋭い牙が覗いた。 「私は、あなたと過ごしたい。これからも。……あなたは若い姿のままなのに、私だけ老いていく。または、私が死んでもそれっきり」 そして私は、いつか死ぬ。永遠を生きる、DIO様のいない世界へ逝く。それが、何より怖い。 「実のところ――わたしは、君を失くすことは惜しいと、そう思っているよ」 甘い声で囁くDIO様のことを、私はこればかりは信じることができない。 それは、何のため? あなたの目的の一部のため? 「だからといって、DIO様は」 「わたしは人間としての君に価値を感じているんだ。ナマエ、わたしはおまえを死なせないさ。……きっとな」 私の言葉を遮って、彼は言葉を続ける。 甘美なその言葉。騙されてしまいそうになるこの言葉。本気で彼がそう思っていると、そう信じることができるほど、愚かであればよかったのに。 「百年前――昔のあなたのことを知っている人は、この世にいない。でも、蘇らせようと思えば、あなたにはできるはずなのに」 「確かに。……当時のわたしは、三百年前の英雄を下僕にしたこともあった。百年前のわたしを知る者を蘇らせることも、やろうと思えばできるだろうな」 そして、肩をすくめる。彼は絶対にそんなことをしないだろうなと、ただそう思った。 「昔のわたしを知る者は、今の世に必要ないさ。ジョースターとの血の繋がりも、もうすぐ断ち切る。それが運命」 DIO様に、家族はいるのだろうか。私は知らない。だが、蘇らせないことが答えなのかもしれない。 彼は、自分自身のことしか必要としていない。部下たちも、使える人材だとしても使い捨て。私もいつか捨てられる。彼にとって大事な人なんて、ひとりもいない。 DIO様はきっと、吸血鬼を増やしたくないのだ。よっぽどのことがない限り。だからといって彼が、本当に人間としての私を――ほんの少しでも必要としているとは、思えない。 私はこんなに焦がれていても、彼は私を必要としない。それなのにDIOという男は、私を手元に置く。 まるで大切なものを手元に置いて、いつかあっさり手放すような、そんな素振りを見せながら。 いつか訪れる別れが怖い。どんな理由であれ、私が不死の身体にならない限り、私と彼の間には別れが訪れる。彼と別れて死ぬくらいなら、彼と別れて生きるくらいなら、DIO様に殺されたいと、そう思っているくらいなのに。 そんな私の不安を紛らわせるように、DIO様は私の瞼に口付けを落とした。 まるで、愚かな私の目を塞ぐように。 それから、数ヶ月後のこと。私は独り、カイロの街に佇む。早朝のカイロは、やけに静かに感じた。 「本当に、私が生きることになるとは思っていませんでした」 私は人間のまま生き延びた。DIO様は死んでしまったのに。 重いお腹を抱えながら、私は死ねないと絶望する。彼のいない世界は、もう永遠を生きたいなんて一切思えないのに、私はそれでも生きている。彼の置土産を、捨てるわけにはいかないから。 ――わたしは人間としての君に価値を感じているんだ。ナマエ、わたしはおまえを死なせないさ。……きっとな。 今になってこの言葉の理由が分かった。 推測にしか過ぎないが――おそらく、DIO様の血によって吸血鬼になった者には生殖能力がなくなると、彼は見ていたのだろう。だから彼は私を人間のまま、手元に置いていた。その可能性は、ある。 彼の目的は何だったのだろう。分からない。新しい生命が何かを成すことに期待したのか、あるいはただの実験か。 だが、彼は私のことを死なせずに、人ならざる者にしなかったという事実だけがここにある。私の中に宿るもうひとつの命も。それが、DIO様の目的に必要だったのか、今となっては分かるはずもないけど。 「あなたは私が死んでも蘇らせることができるのに、それをしない。……なのに、私があなたを蘇らせたいと思ってもできないのは、不公平じゃないですか……」 そして、私は泣いた。カイロの朝日は眩しくて、それがなんだか、無性に寂しかった。
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