『ディエゴ・ブランドー、ゴォォォ――――――ルッ! 世界の頂点はッ! ディエゴ・ブランドーで完結ですッ!!』 そうだ。世界の頂点はこのDioだ。そのために世界すら越えて、この基本世界にやってきた。勝利のため、元の世界を捨てた。自分の右脚すらも。あのジョニィ・ジョースター、このオレの最大の障害は、もう居ない。 「Dio! Dio! Dio! Dio!」 オレの名を呼ぶコールが響く。破裂しそうなほどに。 せいぜいこのDioのことを称えればいい。勝ったのはオレの方なのだから。勝利者はこのDioだ。この世界を支配してやるのは、この世界の頂点に立つのは、このDioだ。もっと名前を呼べばいい。もっと、もっと―― 「Dio! Dio! Dio! Dio――」 「ディエゴッ!!」 ――そこに。ある女の声が、際立ってオレの耳に入ってきた。 「……ム?」 ディエゴ、と。そんな風にオレを呼ぶ人間が、この世にいただろうか。 皆、オレのことはDioと呼ぶ。あるいは、ディエゴ・ブランドーと。『ディエゴ』とだけ呼ぶ女に心当たりなんてなくて、それが何だか、酷く不愉快だった。 その声色は、親しげ、ではない。 だが、呼び慣れている。その名のことを。この、ディエゴという名前を。 その名が聞こえてきた方向を向いた。 同じようなマヌケ面が並ぶ観衆共の中で、その女の表情はひとつだけ違っていた。――このDioの優勝を称えているというだけではない、別の暗い感情が――殺意とも呼べる感情が、そこにあった。 「君は、確か――えっと、なんだったかな」 オレの世界でも、あの女は見たことある。だが、何だっただろう。 知り合いの貴族の娘か、そんな何かだったかな。少なくともオレのいた世界では、あの女に「ディエゴ」だなんて気安く呼ばれたことはない。 女は目を見開く。オレの態度にショックを受けたらしい。だがオレは、彼女を放置して目を離す。こんな女に、構ってやる時間なんてなかった。 彼女が何か叫んでいるような気がしたけど、全て無視した。他に優先することが、オレにはあったから。 そう、まだやることは終わっていない。これから、遺体をシェルターに隠さなくては。 そうだ。この基本世界のディエゴ・ブランドーと、あの女の関係なんて、このDioには関係のないことだ。基本世界のディエゴ・ブランドーが何を考えていたか、あの女と何をしていたかなんて、オレは知らない。だが、どうとでもなるだろう。 優勝はオレのもの。世界はオレのもの。聖なる遺体も、オレのものだ。そして、あの女は遺体のことを知っている存在ではない――観客席から呑気に見ているということは、そういうことだ。つまり、積極的に排除する理由はない。 だが、遊んでやってもいいかもしれない。彼女がオレに抱いている感情が殺意だったとしても。オレはレースで、以前いた世界で『THE WORLD』という力を手に入れた――世界を使役する力だ。あんな女に、殺されるはずがない。 ああ、遊んでやるよ。この世界のディエゴ・ブランドーのことをよく知るあの女を、このDioに殺意を持つあの女のことを、オレは生かしてやる。 死なない程度にな。 この世界はオレのものだ。 この世界に住むマヌケ共も、オレのものだ――オレが、全てを支配してやる。 そして。基本世界のディエゴ・ブランドーと何らかの関係のある女だって、オレのものだ。 オレは、この世界のディエゴ・ブランドーからも奪い取ってやる。「基本世界」の頂点に立つのはこのDio、ただ一人のみだ。 だから、あと少しなんだ。 ……あと、少し。 そのはずだったのに。 ――オレは今、何を見ている? ルーシー・スティールがオレに渡してきた、「落とし物」。 その中身を見た瞬間、反射的に「それ」を投げた。 それに触れることはかなりマズいと分かっている。大統領から聞いていたこともあるが、それ以上に、本能が警鐘を鳴らしていた――これは、絶対にヤバイ。 だから、必死で足を動かした。時も止めた。……右脚を捨てたからこそジョニィ・ジョースターに勝利したのに、右脚がないからこそ、ルーシー・スティールの「落とし物」から逃げることに手間どっている。 マズい。逃れられない。こんなことがあっていいはずがない。 なのに、オレの首は――基本世界のディエゴ・ブランドーの首は、このDioの方に近づいてきた。その表情は、何故だか、穏やかなもののようにも見えた。 まるで、この世界のことを、……あの女のことも、オレには渡さないと、そう言っているような。 本当に、あと少しだった。 この世界の全ては、このDioのものだった。 本当に、そのはずだったんだ――