「……やるじゃない」 人生で初めて上陸した、アメリカ大陸・ニューヨーク。そこで私は、すぐさま新聞を買い求めた。 そして、7thステージの結果は――ディエゴが、一位だった。その結果に、思わず息をつく。どうやら4thステージの嵐で受けたダメージは完全に回復して、本調子に戻ったようだ。胸騒ぎは収まらなかったが、それでも、少しだけ安心する。 8thステージは、もう始まっている。8thステージが終わったらすぐに9thステージ、つまり最終ステージだ。最終ステージのゴール地点はマンハッタン島の教会で、最後のレースの予想時間は三十分程度らしい。 「明日の朝に、上位陣が8thステージをゴールする見込みです。ジョニィ・ジョースター選手、ディエゴ・ブランドー選手、ポコロコ選手などが走っている姿が、気球の上から確認されています」 ゴール近くのホテルの受付人が、レースのスタッフを兼任していたらしく、現在の情報を教えてくれた。 「……ディエゴは、リタイアしていないのよね?」 「えっ? そ、そうですね……今のところは、Dioがリタイアしたという情報は入っておりませんが」 「そう。……ありがとう」 ディエゴはリタイアしていない。7thステージを一位で通過して、調子が戻ってきている。 それなのに、嫌な予感が止まらないのは、どうして。 「最終ステージの開始を見に行くのですか?」 考え込んでいたが、受付人のその言葉に顔を上げた。そして、気を取り直して言う。 「……いいえ。開始には興味がないわ。いつの日もね。私が興味あるのは――レースの勝利者のみ」 私は、ディエゴ・ブランドーの優勝にしか興味がない。だから、彼には優勝してほしい。絶対に。 「それなら、早めに出発された方が良いでしょう。レースのゴール地点には今までにないくらいの、ものスゴい人出が予想されます」 受付人の忠告は、ありがたく受け取ることにした。その言葉は、納得のいくものだったから。 「……そうね。少しだけ休んだら、もう出発するわ。……優勝者を、見届けるために」 ディエゴの優勝を、見届けるために。 そして、少しだけホテルの部屋で眠り、早朝からレースのゴール地点――マンハッタン島の、トリニティ教会だ――の観客席へと向かった。そこに到着して、私は人混みに揉まれながら、数時間待つ羽目になる。 それからようやく、8thステージの結果が聞こえてきた。8thステージ上で行われている実況は、こちらにまで聞こえてくるようだ。 どうやら、ディエゴの8thステージの着順は四位だったようだが、タイムボーナスの影響によって、二位に上がったらしい。 『Finalステージの結果により、優勝の可能性がある選手は……! ポコロコ選手! ディエゴ・ブランドー選手! ノリスケ・ヒガシカタ選手! ジョニィ・ジョースター選手!』 そして、ディエゴの総合順位は二位……。ディエゴが一位になればその瞬間、彼の優勝が決定する。 「……ディエゴ」 8thステージのゴール地点からFinalステージのスタート地点まで、選手たちは汽船に乗船し、二時間かけてFinalステージの開始場所に到達するらしい。……つまり、最後のレースが始まるまで、あと二時間待たなくてはならない。 チラリ、と私は周囲を見回した。早朝から待ったのに、人に揉まれながら私は実況を聞いている。まだ最終レースが始まってもいないのに、歓声が辺りに響き渡っている。ただでさえ体調があまりよくないのに、また具合が悪くなりそうだ。 それでも。私には、ここを立ち去るという選択肢はない。 彼の優勝を目に焼き付けて、それから蹴落とすことこそが、私の決めた道だから。 『Dioがニューヨークに上陸しますッ! ついに全世界注目の「THE Final ステージ」がスタートしましたッ!』 そして、二時間後。既に立ち疲れて、疲労を感じていた。それでも、実況を聞く限りは、レースは何事もなく始まったようだ。 ――祈るような三十分が、始まった。 いくら短距離とはいえ、十三キロの距離だ、ゴール地点からはディエゴの姿は見えない。だから私は実況の声を聞きながら、ディエゴの状況を把握するしかない。 パフォーマンスを始めたこと。 無茶な場所で速度を上げ始めたこと。 ブルックリン橋を渡る途中で、右脚を大きく負傷したこと。 レース場で何が起きているのか、ディエゴが何を考えているのかはさっぱり分からないが、それでも私は、信じるしかなかった。 このレースの勝利者は、ディエゴであるということを。 ずっと止まらない胸騒ぎのことは、見ないふりをして。 そして――どれくらい時間が経ったのだろう。三十分程度のレースであるとは聞いているが、その実感はない。長い時が過ぎたのかそれとも短い時間しか経過していないのか、自分の感覚がおかしくなっていることだけは分かる。 歓声がうるさい。だが、人を押しのけて、できるだけ前に出ようとする。できるだけ近くで、優勝者を見届けたくて。 『残り五百メートル! 前方にトリニティ教会が見えて来ました! とはいえ、Dioのスタミナが持つのでしょうか!?』 その実況の声を聞いて、ハッ、とレースのコースを見る。……見えてきた。トップを独走しているあれは……ディエゴだ。その後ろを走っている選手が誰なのかはここからではよく分からないが、それでも、ディエゴの姿だけははっきりよく分かった。 五ヶ月ぶりに見る、その男の姿は。 『残り四百メートルッ! 三百メートル!』 段々と彼らが近づいてくる。馬の走る重い音と共に。それに比例して、観客たちの歓声も酷く沸き上がってくる。 数名の選手が、ディエゴに近づいて――だけど、ディエゴは引き離す。あと少し。本当に少しで、そして―― 『ディエゴ・ブランドー、ゴォォォ――――ルッ! ついに! ついに! ついに決着がつきましたーッ! 一着でゴールしたのは、ディエゴ・ブランドォォォォ―――ッ!』 その瞬間、歓声が爆発した。 本当に……本当に、ディエゴは、一位を勝ち獲ったのだ。 優勝を。 世界の、頂点を。