三人だけの最後の晩餐。 裏切り者は、誰なのだろう。 「では、改めて――お誕生日おめでとうございます、愛する人」 「……おめでとう。お義母さま」 「ディエゴ、ナマエ。とても嬉しいわ、ありがとう」 微笑みながら、老婦人は嬉しそうに呟く。自分が誕生した日が最期の日になることなど、知らないで。 彼女の誕生日でもあり最後の晩餐でもあるこの食事は、いつもよりも少しだけ豪華だ。ただ、それでも――私の目に映るのは、義母の目の前にある紅茶と、ディエゴの手元にあるコーヒーと、私のコーヒーばかりだけれど。 「そうね……じゃあ、私から、愛するあなたたちに、少しだけお話させてもらってもいいかしら」 義母が話し始めたので、私はふと顔を上げる。だが彼女は、先にディエゴの方へと顔を向けた。 「ディエゴ」 法律上妻である老婦人に名を呼ばれたディエゴは、彼女の顔をじっと見つめた。その顔には薄く微笑みが浮かんでいたが、その下で彼が何を考えているのかは、誰にも分からない。 「あなたは私に、幸せを届けてくれた。女として愛してくれる喜びを思い出させてくれた。私はこの半年間、とても幸せだったわ。ありがとう」 そして彼は、微笑を持って応える。その笑顔の裏に愛情なんてものがないことも、義母は本当はそれを知っていることも私には分かっていたが、結局私が口を挟むことはなかった。 「ナマエ」 そして義母は、次に私の方へと顔を向けた。だから私も、年老いた母親に顔を向ける。彼女のその表情は、あくまでどこまでも穏やかであった。 「私は、あなたの幸せを、心から願っているわ。だからあなたは――自分の思う道を、進んでもいいのよ」 ――その言葉を、もし、もっと早く聞けていたならば。私は、別の道を歩むこともあったのかもしれない。 だけど。もう、いいのだ。これが最後の日であることを、私は既に、受け入れているのだから。 「ありがとう、お義母さま。……私も、あなたの娘でいられて、幸せよ」 幸せだったと言いかけて、飲み込んだ。 この言葉は、彼女に伝えるべきではない、私が独りで墓場に持っていくべき言葉だから。 「では、今日という日を祝って。そろそろ食べましょうかね。今日も温かい食事を頂けることを、神に感謝しながら――」 彼女の声を聞きながら、いよいよだ、とやけに緊張が走る。視線が泳ぐのを自覚するが、ディエゴも、義母も、私の様子に気づいた様子はない。 私が動けないでいる中で――まずはディエゴがコーヒーを手に取り、クン、と香りを嗅ぐ。それから彼は、そっとカップに口をつけた。 そして、義母が紅茶を手に取り、ゆっくりと飲み込んだのを――私は、確かに見ていた。 ……ああ、飲んだ。二人ともだ。もう、後戻りはできない。 手が震える。私が盛った毒の飲み物を、ディエゴも、義母も、飲んだ。彼らの死は、ここで確定した。 それから。私はそっと、目の前のティーカップに手を伸ばした。一見、なんの変哲もないコーヒーを。毒の入った、泥水のようなコーヒーを。 そして、一気に飲み干した。