1.出遭い

 私の人生ではよくあることだけど、ディエゴとの出遭いは最悪だった。  私の、年老いた養母と結婚した、私とそう変わらない年齢の男。 「あなたがディエゴ・ブランドー……、私の義父になる男、ね」  私は社交辞令の挨拶の裏に隠しもしない殺意を秘め、その男へと向ける。 「そういう貴女は、ナマエ・ミョウジ。これから私の義娘になるひと、ですね」  男はあくまでも紳士的に、膝まづいて、私の手の甲に口付けを落とした。  さすがの私でもそれを拒否したりはしない。仮にも私の大切なお義母さまの夫となるひとだ。  でも、私は気づいている。この男はお義母さまのことを見ていない。私のことだって見ていない。  観ているのはお義母さまの死と、この一族の財産だけ……。 「ナマエ! 明日は結婚式ですよ。今日中に支度を終わらせなさい!」  ウキウキ顔を抑えることができていないお義母さま。声も私を叱りつけるようで、いつもよりもワントーン高い。心底楽しそうだし、嬉しそうだ。 「わかっているわ、お義母さま。今、準備をしているところ」  そう言うと、あらそう? と上の空の返事が返ってきた。どう見たって浮かれている。  反対に私の心中は暗い。これが私自身の結婚式だというのなら喜んで準備をするが(もちろんほとんどメイドにやらせるが)、年老いた義母の結婚式だなんて! 義母は八十三歳、対して相手の男は二十歳。相手の男は顔も良し、馬も口も良し。相手に困る男ではあるまい。加えて自慢ではないがうちの一族はそれなりにお金があるのだ。これが何を意味するか、大抵の人は言わなくてもわかるだろうに、義母にはそれがわからないのだ。  義母は確かに優しい人だ。捨てられていた私のことをこの歳まで育ててくださった。それは認めざるを得ない。私はあの人のことが好きだ。だが、男がそれを理由に結婚したとは……どう考えたって無理がある。  窓の外を不意に眺めた。外は暗く、雲が多く、いっそう気分が悪くなった。  少し、私の話をしようか。  私は、川に捨てられていた子供だったらしい。本当の親のことなど何も知らないし、知りたくもない。興味もない。どこかで野垂れ死にをするか、私の知らないところで生きていて欲しいと思う。できれば二度と会わずに人生を終えたい。彼らを憎まないように、せめて彼らのことに関心を向けずに生きていたい。私だって人を憎むのは嫌だから。  まあ、そんなことはどうだっていいのだ。血の繋がりなんていらない。私にとって重要なのは、義母ひとりだけ。  彼女は凄い。こんな、どこの馬とも知れない、当時生後五ヶ月にも満たないであろう私を引き取ったのだ。普通孤児院にでもやるだろうに。  義母の夫は三十年近く前に亡くなったそうだ。つまり、義母と私はずっと二人暮らし。でも私は、それなりに幸せに暮らしてきた。平和な生活を、義母と過ごせればそれで充分だった。  そう、それで充分だったのだ。    それを、あの男が全て壊した。  ディエゴのせいで、私と義母の運命が百八十度変わってしまうとは、ディエゴを毛嫌いし、警戒していた当時の私でも気づけなかったけど。