「……い、おいナマエ」 ぼんやりと、ぼんやりと窓の外を眺める。今日は雨だ。 「おいナマエ、聞いてんのか――」 周囲から聞こえる音が雨音に埋もれて聞こえる。どこからか、眠気が襲ってくる―― 「ナマエッ!」 「わっ! な、何」 「何、じゃあねえよ。オレがどれだけ呼びかけたと思ってんだ」 急に現実に引き戻されて、私は目を瞬かせる。そうだ、えっと、今、私は――何をしてたっけ? 軽く混乱している私をよそに、目の前にいる男――アバッキオは、ため息を吐きながら私に言う。 「いいから、そこをどけな。調べなきゃならねえことがある」 「調べること?」 どうも、寝ぼけた頭では彼の言っていることを瞬時に理解することができない。考えるより先に、私は座っていた席から立って、その場を避けた。 「『ムーディ・ブルース』! 二日前の夜中にいたヤツを『再生』するッ」 するとアバッキオは自分のスタンド――『ムーディ・ブルース』を発現させる。そして、再生されたのは――知らない男? なぜ? 「……やっぱりか」 「ちょっと、話が見えないんだけど」 なぜ、私たちのアジトの中にいた人物のことを再生して、全く知らない人間が再生されるのか。そして、この男は一体何をしているのか。 私の疑問に、アバッキオはやや、面倒そうに返事をする。 「オレたちが誰もいない時間帯に、変なヤツが忍び込んだんだよ。今のところ盗まれたもんとかは見つかってねーが、万一ということもあるからな。もしかしたら誰かがヘマをやらかして、恨みを買ったのかもしれねえ。用心は必要だ」 「……ギャングとはいえ、そんなに悪いことやってるつもりないけどね、私たち」 「仕方ねえだろ。シマの治安維持のためにやってるとはいえ、シメるときはシメるからな」 「逆恨みされてるかも、ってことね」 アバッキオは頷いて、黙々と『再生』された男の様子を観察していた。私は寝起きの頭で、その様子を特に意味もなく眺めていた。 「そういえば、アバッキオってどうしてそんなスタンド能力なんだろうね。なんだか、すごく警察に向いてそうだわ」 特に深い意味は考えず、ただ冗談のつもりで言ったつもりだった。だけどアバッキオは、私の言葉に――心底驚いたように、目を見開いた。 「おまえ、何でそれを……」 「え?」 驚いた素振りを見せるアバッキオに、私の方も驚く。私のこの様子に――アバッキオは、軽くため息をついて答えた。 「もしかして、オレが元警察官だってこと、知らねえで言ったのか」 知らなかった。アバッキオの経歴なんて。 だってそんなこと、こんな機会でもなければ話すこともない。そりゃまあ、知っている人は知っているだろうけれど。 私はこの人たちとそれなりに長い間、仕事をしていたと思っていたけれど――知らないことは、たくさんあるんだなと、そう思わされた。 「『ムーディ・ブルース』のスタンド能力、か……。まあ、これがオレの背負うべき、運命ってヤツなのかもしれねえな」 「どういう、こと」 「忘れちゃいけねえんだよ。……絶対にな」 自身のスタンドを見つめるアバッキオ。そんな彼に、語らずとも感じるものがあった。詳しくは知らない、彼の人生を見ているようだった。 彼の背中には、ずっと重たいものがのしかかっているのかもしれない。彼は、私が想像しているより、ずっと重たい過去を背負っているのかも。そんなものを背負わなければならないと考えると、やりきれない感情がひしめいた。 「忘れちゃ、いけない……」 彼の言葉を反芻していると、私自身が何かを忘れているような気がして、私は顔を顰める。 なんだっただろうか? すごく、変な気分だ。 アバッキオはそんな私を見て――ため息を吐いた後に、少しだけ口角を上げて、そしてこう言った。呆れたように、少しだけ表情を緩めて。 「気が済んだか? そろそろ、リプレイを終了するぜ」
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