「こりゃアレしかねーだろ。んんんレッツパーリィナイッ!」 二人しかいないのに? という野暮な指摘はしないでおいた。 沙明と二人きりになって人間が勝利したのは、初めてだ。次のループまで少しくらい彼に付き合うことは、悪くないかもしれない。 「パーティ、か。……じゃあ、お酒でも飲もうか? 美味しいのがあればいいけど」 私の認識では、お酒は二十歳を超えてから飲むものだ。沙明の識別年齢は二十一だし、私の識別年齢も二十は超えてるし、問題ないだろう。 最も、この船に乗っている人たちと、私の持つ常識がズレていること自体はよくあることなのだが―― 「んー? あー、なるほどねェ。じゃ、そういうことにすっか」 沙明に特に何も言われなかったし、大丈夫そうだ。ループまでのひととき、私たちは、お酒を飲んで過ごすことにした。 二人きりのパーティの始まりだ。 「じゃあ、乾杯!」 グラスを合わせる。本来音を鳴らすのは良くないとも聞いたことがあるが、沙明も私も、そんなことを気にする性格ではなかった。 「お前さ……よく酒とか飲むのか?」 「どうだろうね。あんまり覚えてないかな」 適当なものをつまみながら適当な会話を交わす。この船に乗ってからアルコール飲料を飲んだ記憶はない。そして、この船に乗る前の記憶は私には存在しない。正直な答えだ。 「お前……飲み慣れてねーモンを男の前で飲むのやめろって。襲われっぞ」 「さすが、いいお酒だね。ジョナスが揃えてるだけあるな」 「おま、話聞けよ」 ワインの香りというものはこういうものだったか、なんて思う。案外悪くない。記憶を失う前の私は、お酒が好きだったのだろうか。そうやってぼうっとしていたからこそ、沙明の次の言葉には、少しヒヤリとさせられた。 「つーか……ジョナスって誰だ?」 口が滑った。そういえば、この宇宙の船にジョナスは乗っていないのだった。 「これは……夢なんだよ。私にとっては。そして、沙明にとってもそう。だから私の言葉の意味なんて、考える必要はないんだよ」 ここは、『うやむやにする』で誤魔化しておこう。奇しくもジョナスから教わったスキルだし、沙明もよく使うスキルだ。……口に出してみると、思っていた以上にジョナスっぽい言葉になってしまったけど。 「……ワケわかんねーこと言うよな、お前」 「そうかな。お酒のせいかも」 実際この会話は、私のループを終わらせるためには意味のない、ひとときの夢のようなものだ。だって沙明の特記事項は既に全て解放されている。私はループしてこの記憶はただの夢のような思い出になり、沙明はループした後の私のことをきっと忘れる。 だからこそ不毛で、だからこそ愛しい、意味のない会話だ。 「これが夢だっつーなら……もっと、トコトンいい夢見ようぜ? ベッドなら空いてるし、そもそも二人しかいねーんだ。船のドコでナニしてもモーマンタイだろ?」 彼は、私の言葉の意味を考えるのを諦めたらしい。ある意味沙明らしい言葉だが、お酒のせいか、いつもより酷い気がする。私は苦笑した。 「それはダメ。意味がないからいいの。私は、意味のない夢のような会話をしたいだけだから、そういうことをしたら、意味のある思い出になっちゃうでしょ」 浮遊するような気分のまま、私は彼に笑いかけた。 「ね? ミンくん」 だからその呼び名にも意味はない。多分、きっと、そうなんだと思う。 「っだよ、ケチだなお前……」 沙明はそれしか言わなかった。それでも仄かに頬が赤く見えたのは、お酒のせいかそれ意外の要因か。何にせよ、悪くないな、と思った。 ああ、もうすぐループが始まるだろう。感覚でわかる。そんな中の、夢心地の気分は、案外心地よい。 「また、二人きりのパーティができるといいね。そのときは、誰も汚染者も犠牲者もいない、そんな宇宙で――」 そんな中で。私はただ、眠るように言った。
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