宣戦布告のつもり

「ねえ、エイトは好きな人いるの」  私が樽の上に座って彼に聞くと、エイトは訝しげな顔をして聞き返してきた。 「……どうして?」  どうして……って。あなたのことが好きだからに決まってるじゃない。  そう言おうとしたがそれはやめておいて、別のことを言う。 「いるの、いないの、答えてよ」  だけど、エイトは困惑した顔で黙ったままだ。そこで私は確信を持つ。 「……やっぱり、馬姫様なんだ」  私が拗ねて言うと、ち、違うよ! 畏れ多い……! と顔を真っ赤にして反論された。全然説得力がない。 「エイトが今考えてたこと、当ててあげよっか? 好きな人はいるけど、それはミーティア姫、一近衛兵としてそれは許されない感情。だけど、ナマエからの質問に嘘をつくのもなんか嫌だ。……どう? 大体当たってるんじゃない?」  私がそう聞くと、エイトは虚を突かれたように黙った。どうやら、本当に大体当たっていたみたいだ。 「ねえ、どうして馬姫様なの? ……とは聞かないよ。ミーティア姫、とても素敵な人だものね。私だって憧れるわ。でも、私が聞きたいのは……。確か、姫様、婚約も決まっているのよね? ……ねえ、どうして諦めることができないの?」  エイトはふ、とため息をついて、こう言った。 「……人を好きな気持ちなんて、そう諦められることじゃないよ。サザンビークの王子様がどんな人か知らないけれど……でも。実際、王子様とミーティア姫様が結ばれるのを目の当たりにするまでは……ぼくは、この恋心を忘れたくないんだ……。でも、ナマエ。どうしてこんなこと聞くんだい?」  自分のことにも私のことにも姫様のことにもあまりに鈍感な彼は私に言った。ミーティア姫がエイトのことを、ただの近衛兵として見てないことくらい、私にもわかる。 「……私が、エイトのことを好きだからよ」    一瞬の沈黙。エイトの顔が、面白いくらいぐるぐると回る。そして、 「……嘘?」 「嘘じゃないよ」  エイトは目を回し疲れたのか、その場に座り込んだ。 「……でも、ぼくはナマエの感情に応えることはできない。ごめんね」 「別に、今すぐ応えてもらいたいわけじゃないから、別に構わないわ。それでも」  でも? とエイトは、立ち上がった私を、力なく見上げた。私は微笑んで、告げる。 「エイトが、王子様と、姫様の結婚式を目の当たりにして、ようやく諦めがついたのなら、是非私とのことも考えてほしいものね」  呆然としたエイトを残して、私は立ち去った。これは宣戦布告、のつもり。  その時の私には、未来のことなどわからない。  サザンビークの王子がとうてい姫とは釣り合わないような人間だと言うことも、王子とミーティア姫様が結ばれなかったことも、そして、それからのことも。  私には何もわからないまま、ただ時は過ぎていく。

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