未知なるものを探して

「盗賊さん、ちょっと飲みすぎじゃない?」  ここは、ルイーダの店。旅人たちが仲間を求めて集まる出会いと別れの酒場。  今のところは旅人ではない、近所に住んでいるだけの私も、たまにこの酒場に顔を出す。せっかく平和になったのだから、私だって冒険に出たいな、と思っているから、出会いと仲間を求めて。 「あんまり飲みすぎるのは身体に毒だよ? 冒険に備えて、身体は大事にしないと」  隣に座っていた、私が何気なく声をかけた彼。白い髪に精悍な瞳を携えた盗賊もまた、何気なく返事をした。 「俺、失業中なんだよ」  それは確かに、知っていたけど。 「じゃあ、私が雇ってあげようか?」 「日給一万ゴールド」 「高っ! そんなに払えないよ」 「冗談だ」  軽口を叩くと軽口で返された。とはいえ全てが冗談というつもりもない。冒険の経験がある人と仲間になることができたなら、きっと頼りになる。 「お前、旅に出たいのか?」  彼はお酒を口にしながら、私に問いかけた。 「出たいよ。平和になった世界を、この国の外を、見てみたいと思ってる」  私の言葉に彼は、そうか、と頷き、そのまま黙ってしまった。  しばらく沈黙が落ちる。だから私も、飲み物に口をつけた。なんだか少し、苦かった。  やがて彼は、ぽつりと呟いた。 「……ま、船ならあいつらが残していった奴があるしな」  その言葉に顔を上げる。すると彼は、不敵に笑っていた。 「いいぜ、連れて行ってやるよ。この小さな国しか知らないお前に、世界の広さってものを教えてやる」  良い出会いに巡り合えた、と。ただそう思った。  オルテガの息子、勇者が魔王バラモスを倒し、ここアリアハンは平和になった。……とはいかなかった。  王は内密にしていたが、バラモスは大魔王の手下の一人にすぎず、勇者が大魔王ゾーマを倒し、ようやく世界に平和が訪れたらしい。バラモスを倒してもいなくならなかった魔物たちが、最近になってようやく出てこなくなったことからも、それが分かる。  ゾーマは地下の世界にいたため、勇者一行はこの世界を飛び出して、地下の世界を旅していたらしい。  そして。勇者と共にゾーマを倒した仲間たちは。  帰ってこなかった。  ゾーマが倒されたのと同時に、この世界と地下の世界を繋ぐ道が閉ざされてしまったのだと、そう聞いた。  勇者は三人の仲間を連れてゾーマに臨んだが、それ以外にも数人の仲間がこの世界に残されていた。そのうちの一人が、この盗賊さんというわけだ。 「俺、アレフガルドはあまり探索できてなかったんだよな」  船に乗りながら、彼の話を聞く。彼は自分の名前は教えてくれなかったが、勇者たちとの冒険についてはいろいろ教えてくれた。  大魔王と戦うため、勇者は力や魔法が強い他の仲間を連れて行くことに決めたらしく、地下の世界――アレフガルドを、盗賊さんはあまり冒険できなかったらしい。未知の世界の未知の宝を見つけられなかったのが悔しいと、そんな感情を滲ませる。 「それなら、この世界からアレフガルドに繋がる道を探す旅に出ようよ。そうすれば、知らない世界をもっと見て回れるでしょ?」  だから私は言った。地下の世界とはいえ、一度行けた場所なのだ。もしかしたら、他のルートがあるのかもしれない。  それに。私も、そのもう一つの世界を見てみたかった。世界を救ったという勇者の姿をひと目見たかった。この世界と地下の世界が繋がるといいなと、そう思ったのだ。 「……そうだな。まだ俺の知らない道が、あるかもしれないからな」  そして彼は遠くを見る。その瞳に何が映っているのか、それは分からなかったけど。  盗賊さんに連れられたのは、氷に覆われた島だった。 「もしかしたらあの鳥を見守っていた巫女たちが、何か知ってるかもしれない」 「……鳥?」  曰く。勇者たちが乗っていた不死鳥ラーミアは、ゾーマが倒されてから姿を見せなくなったらしい。そんな、不死鳥と呼ばれる伝説の鳥ならば、もう一つの世界の行き方を知っているかもしれない、と。  レイアムランドのほこら。オーブを捧げられた祭壇に立つ巫女たちは、私たちの姿を認めると、厳かに話し始めた。 「ラーミアは」「ラーミアは」 「世界を旅しています」「世界を旅しています」 「時空を超えて」「時空を超えて」 「世界を越えて」「世界を越えて」  その言葉に、私たちは顔を見合わせる。その言葉に、どこか面食らいながら。 「ラーミアは他の世界を旅している……ってことか。この世界じゃなくて」  盗賊さんはゆっくり口を開く。その言葉に、私は声を弾ませた。 「それなら、ラーミアがいれば、アレフガルドにも行けるかもしれないってこと!?」 「かもな」  一筋の光が見えた気がした。もし、今は別の世界を飛んでいるラーミアが、再びこの世界に戻って来てくれたのなら。……私たちも、アレフガルドに行くことができるかもしれない。  ほこらを立ち去り、再び船上へ。海の上の船旅は、この世界がどこまでも広いのだと、そう思わされる。その未知なる世界は、無知な私に、探究心を教えてくれるものだった。 「もしかしたら。……この世界でもアレフガルドの世界でもない、また別の世界もあるのかもしれないな」  世界を越えて。そう言った巫女たちの言葉は、そんな夢すら見せられるものだった。 「見てみたいな。そんな世界が、あるのなら」  そして、冒険したい。そう思う。  そのために、ラーミアを呼び戻す方法を求めて、あるいはこの世界を余すところなく冒険するため。私の今生きるこの世界をどこまでも旅してみたいと、そう思った。   「お前は俺の雇い主だ。だから連れて行ってやるよ。どんな世界でも」  そう言って、私に向き合ってくれる盗賊さん。そんな彼に私は、しっかりと頷いた。 「うん! まずはこの世界を、余すところなく冒険しないとね」  この世界にだって、見たことのないものがたくさんある。それはきっと、この世界を冒険していた盗賊さんにとってもきっと、例外ではない。洞窟も塔も幽霊船も、まだまだあるかもしれないのだ。  そして、お宝を見つけよう。二人で。  それから、その先に。いつか、別の世界への道が開くのではないかと。私はただ、そう願った。

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