たとえ何年経っても

▼DQ32周年! ※メタ発言/捏造 「一杯貰えないか」  ラダトームにある小さな酒場。勇者と呼ばれている男は、一人で飲んでいる女の隣に座った。  女は男の顔を横目で見た。だが、自分から口を開こうとはしなかった。 「久しぶりだな」 「そうね」  男が声をかけると、女は淡々と返事を返した。そして、彼らは酒に口をつける。  二人はいかなる仲なのか。それは当人同士にしかわからない。ただ淡々と、二人の会話は進んでいく。 「元気にしてたか」 「まあまあよ。あなたは?」 「俺もまあまあってところだ。ちょっと身体がなまっているような気もするがな」  ふうん、と女は男のことを眺めた。全身、鎧に覆われた身体。よく見ると、魔物につけられたであろう傷が覗いている。 「怪我してるの?」 「少しな。しくじった」 「治療しなくても大丈夫なの?」 「これくらいどうってことない。酒を飲んで寝れば治る」  そうして男は、黙って酒を呷った。  女はそんな彼をしばらく見つめていた。だが、暫しの沈黙の後、女は意を決して、こう尋ねた。 「そこまでして、世界を救いたいの? 人を救いたいの? 自分が傷ついてまで」  淡々としたようで、どこか必死さを感じる女の言葉。だが男は、どこまでも淡々と返す。 「それが俺の生まれた意味だからな」 「終わりがなかったとしても? 終わりが来ても、また始まってしまうとしても?」 「そうだ。放棄ですら、俺にとって終わりではない」  女は口をつぐんだ。何も言えないようだった。  そして、男も口を閉ざした。何も言う気がないようだった。  彼らは何を考えているのか。何も考えていないのか、何も考えることができないのか。もしかしたら、何も考えてはいけないのかもしれない。 「今まであなたは何回、世界を救ったのかしら。これからあなたは何回、世界を救うのかしら」 「決まってる。人が、世界を救いたいと思った数だけだ」  女が諦めたように放った言葉も、男の耳には届かない。 「それなら、あなたは何回、姫を救いに出しに行くのかしら」 「これも決まってる。魔物に姫が攫われた数だけだ。人が、姫を救いたいと思った数だけだ」  女が呆れたように言った言葉も、男の耳には届かない。 「それじゃあ、あなたの帰るべき場所は、一体どこにあるのかしら」 「決まってる――俺の帰るべき場所は、ここにあって、どこにでもあって、どこにもない」  女は黙って、酒に口をつけた。自分が酔っているのか酔っていないのか、よくわからなかった。  男も黙って、酒に口をつけた。自分が酔っているのか酔っていないのか、そんなことはどうでもよかった。 「興が醒めた。寝る」  そう言って立ち去ろうとする男に、女は言った。それはまるで、独り言のようだった。 「私は待っているわ」  男は一瞬だけ動作を止めた。だが、また歩き始めた。  女は男の方に顔を向けようともせず、男の動作を気にとめようともせず、ぽつりと呟いた。 「何度でも、あなたが帰ってくることを。三十二年前、あなたが初めて世界を救う旅に出た、あの時からずっと……」  勇者は、返事をしなかった。

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