それは、コロシアムにて、モニカ姫とリック王子の結婚式を見ていたときのことだった。 もの珍しそうに、結婚式の様子を見ている勇者とその幼馴染の姿をやや遠目に見ながら――マーニャという名の踊り子は、占い師である妹に対してそっと話しかけた。 「ねえ、ミネア」 「どうしたの? 姉さん」 マーニャは、妹のミネアに対して、勇者たちには聞こえないように声をひそめて言う。 「あの子たちって、実際どういう関係なのかしら」 「どういう関係……とは?」 ミネアは不思議そうに首を傾げる。そんな妹に対し、マーニャはもどかしそうに小声で囁いた。 「そのまんまの意味よ。あの二人の関係を言葉で表すなら、何なのかしらって思って」 「幼馴染って言っていたじゃない」 「そうなんだけど、そうじゃないっていうかさ……」 ミネアは落ち着いた様子で返したが、マーニャは少し、考えながら言った。 「なーんか、幼馴染っていう言葉に収めるには、ちょっと足りないって言うか。ほら、あの子なんて、かなり意識してるように見えるじゃない」 マーニャの目線につられ、ミネアは勇者である少年の隣にいる少女のことを見る。なるほど、彼女は結婚式を見て、どこか面食らっているように見える。その様子は、言われてみれば確かに、少年との将来に思いを馳せているようにも見えなくもない。 「でも、私たちはまだ何も知らないのに、そんなことを言うのは早合点じゃないかしら? 実際、私たちは二人の故郷も、過去も今も知らないんだもの」 「……そうなのよね。あたしたち、あの子たちのこと何も知らないのよね。そこが問題なのよ」 ミネアの発言に、マーニャは意外なほど、冷静に呟いた。どういうことかとミネアが首を傾げると、姉は頷いて、静かに言った。 「あたしたち、これから一緒に旅をしていくんだもの――二人のことは、もっと知った方が良いと思うわ。まっ、あたしたちもあの子たちに、あたしたちのことなんにも伝えてないんだけどさ」 「…………」 ミネアは俯いて、唇を噛む。姉の言う通りだと、確かに痛感したからだ。 そして、その後――ミネアは確かに、そっと呟いた。 「私たちは、確かに二人のことは何も知らないわ。過去のことも、今の二人の関係も、何も」 「そうね」 「でも、もしかしたら――二人が幸せになれる未来は、あるかもしれないわね」 ミネアはそう放った後、含みのある笑みを見せた。マーニャは一瞬呆然としたが、慌てて妹に対して聞く。 「ちょっとミネア、それどういう意味?」 しかし、彼女は姉の言葉には応えなかった。いつの間にやら、妹は勇者と少女の近くに寄り、彼らに話しかけている。どうやら、そろそろ結婚式場の外に行こうかと言っているようだ。 そんな三人の様子を遠巻きに見て、マーニャはどこか唖然としていたが――ふと、諦めたように笑いながら、ぽつりと呟いた。 「……ま、いっか」 それから、マーニャは三人のもとへ駆け寄った。 「さ、じゃあ行きましょう」 マーニャの言葉に押されるように、彼らは、結婚式場の外に出た。勇者と少女が前を歩き、姉妹は見守るように後ろを歩く。 少年少女の背中を見ながら――姉妹は、そっと微笑んだ。 まだ、二人のことが何かわかったわけではなかったけれど――それでも良い、と姉妹は思った。 姉妹はまだ、勇者と少女のことを、何も知らない。故郷のことも、過去のことも、何も。 だけど。 二人のこれからは、知っていけるのではないかと――そう思いながら、彼らは一歩を踏み出した。