「ソロ、占いだって。……どうする?」 突然声をかけられたことに少し戸惑いつつも、とりあえずはソロに相談してみる。私たちに声をかけた、褐色の肌を持つ占い師はただ、神秘的に微笑んで私たちのことを見つめるだけだ。全く知らない人間であるはずの彼女だったが、何故だかその視線にはまるで懐かしさのようなものが感じられ、見つめられていても不思議と居心地の悪さは感じなかった。 「……そうだな。俺たちがこれから何をすればいいのか、少しでもわかるかもしれないな。やってみるか?」 ソロは少し考え、そして呟く。その間、女性は微笑みを絶やさずに静かに佇んでいた。 「じゃあ、ソロだけやってもらったら? 私たち、そんなにお金持ってないし。それに多分、私よりもソロが占ってもらう方がいいと思う」 「……いいのか? ナマエ、占いとか好きそうなものだけど」 「いいの、それに占いはそこまで好きってわけでもないよ」 私が言うと、ソロは困っているように見えた。だからといって、「だってソロは勇者だから」と付け加えはしなかったけれど。でも彼は、私が考えていたことを感じ取ったのだろうか? それはわからなかったけれど、勇者はやがて、決心したようにこう言った。 「……じゃあ、お願いします」 ソロは少し戸惑いのようなものを含めつつも、真剣な表情をしている。そんな男を見て、女はもう一度微笑んだ。 「では、占ってさしあげましょう」 占い師は水晶玉を見つめた。その瞬間、厳かな空気が辺りに漂い、思わずゴクリと唾を飲んでしまう。彼女はこの澄んだ水晶玉を通し、何を視るのだろうか? 「あなたは今、温かい闇に包まれています。あなた自身の光の輝きは、闇によって奪われ、そして同時にとても大切に守られています」 占い師は滔々と語り始めた。まるで心の中に直接訴えかけるような、濁りのない声色。どこか夢を見せられているような、現実離れした感覚―― 「そしてあなたのまわりには、七つの光が見えます。まだ小さな光ですが、やがて導かれ大きな光となり……。えっ!?」 そこで女性は目を見開いた。信じられないものでも見たかのような表情のまま、固まってしまっている。今まで見ていた柔らかい夢のようなものから、急速に現実へと戻ってきてしまったような感覚に陥った。 「も、もしや……あなたは、勇者さま!」 彼女はそう囁くと、ソロに近づき、その手を取った。占い師の表情は感激したように輝き、縋るように差し出された手は、しっかりと勇者のそれを握りしめていた。 「勇者……。俺が、勇者」 ソロは戸惑ったような表情をして、その目を占い師の顔と、握られた手に向けている。そんな二人を見ていると、何故か私の心に薄暗い感情が蔓延り始めた。胸がちくちくと痛み始めたけど、気のせいということにしておいた。 「あなたを探していました。邪悪なる者を倒せる力を、秘めたあなたを」 占い師の女性はそこで勇者の手を離した。途端に胸のつかえが取れたようにはなったけれど、それでも胸騒ぎは収まらない。 それに占い師が言っている言葉は、少し気になる。ソロが勇者で、大きな力を持っていることは、村の人たちに聞かされていて知っていた。だけど――温かい闇に包まれた光? 七つの光とは、いったい何? それに、ブランカで踊り子たちが噂していた、勇者を探す人間とは、もしかしてこの人なのだろうか? 「私、ミネアと姉のマーニャは、あなたとともに、暗黒の力に対抗すべく運命付けられた者。この世界には、私たち姉妹と同じ運命を背負った者がいます。そしてあなたもきっと、そうなのでしょう」 「えっ。わ、私?」 占い師――ミネアさんは、ええ、と頷いた。暗黒の力に立ち向かうべき、運命を背負っている。それが私たち。 そこで私は思った。思ってしまった。今まで考えてこなかったこと、考えることを避けてきたことを。 ――何故ソロが勇者なのだろう? どうして『勇者』だということを、村のみんなは知っていたのだろう? 「まだ見ぬ彼らと力を合わせ、地獄の帝王の復活を阻止するのです。勇者さま、私たちを導いてください」 私の思考を遮るように、勇者か、とソロは呟いた。そして彼は、暫く放心したように黙り込んでしまう。その胸中はいかがなものなのだろうか。 幸せだった、昔のことを思い出しているのかもしれない。それとも自分が『勇者』である故に、村のみんなが、血が繋がっていないとはいえ、今まで育ててくれた両親が、そしてシンシアが死んでしまった、村が滅ぼされたあの時のことを思い出しているのかもしれない。ソロの顔は少しだけ、悲しそうに歪んでいた。 それでもソロは、表情を引き締めて顔をあげた。決意が込められたその表情は、まさしく『勇者』の顔であった。 「……わかりました。ミネアさん、一緒に力を合わせましょう。いいよな? ナマエ」 「う、うん」 ソロの精悍な顔立ちにこんな凛々しい表情を浮かべられ、思わずドキリとしてしまう。子供の時からずっと一緒にいたのに、こんな顔をしたソロは初めて見た。けれど、ドキッとしたのと同時に、ソロが少し遠くなってしまった気がした。 ソロと私の返事を聞いて、ミネアさんはありがとうございます、と目を細めた。その表情は変に神秘的でなく自然体で、これが彼女の本当の笑顔なのだろうか、なんて思った。 「さあ、参りましょう。あ、お金は頂きませんので。さて、姉のマーニャは今日も懲りずに、カジノでスッてるはずです。行きましょう、勇者さまたち」 「自己紹介がまだでしたね。私はミネア、占い師をやっています」 「俺はソロ、十七歳です。一応勇者……なのかな」 「……私は、ナマエです。ソロの幼馴染です」 「ソロさんにナマエさん、ですね。これからよろしくお願いします」 「いえ、こちらこそ……」 ミネアさんの姉、マーニャという女性の元へ向かう道すがら、自己紹介がてら会話をする。しかしミネアさんは丁寧な物腰ではあるがどこかよそよそしく、少し気まずい空気が流れ始めていた。 「あの、ミネアさん。ひとつ聞いてもいいですか?」 「はい、なんでしょう」 話しかけてみたけれど、やっぱりミネアさんの態度をよそよそしく感じてしまう。ミネアさんひとりでも打ち解けるのは大変そうなのに、それにマーニャという女性も加わってしまうなんて。正直言うと、少し辛い。マーニャさんはもう少し気さくな方でありますように、とこっそり願っておいた。 「あ……、えっと。少し気になることがありまして。ソロが勇者なのは知っていました。だけど……どうしてソロが勇者なのでしょう。そして、七つの光って、温かい闇って、なんのことなんでしょう」 「あ、それは俺も気になってました」 ソロと私が聞くと、ミネアさんの瞳が揺らいだ。少しの間、考えごとをするように俯く。だがその後顔を上げた彼女の瞳は、既に真っ直ぐに戻っていた。 「……そうですね、ではそれについて、後でお話しましょう。私も、気になることがあるので。でもまずは、姉を迎えにいくことが先です」 ソロと私は首を傾げ、顔を見合わせた。ミネアさんはそんな私たちを一瞥すると、何も言わずに歩き出してしまった。 「こんなに早く、勇者さまに出会えるとは思いませんでした。認めたくありませんが、カジノのある町から離れたがらない、姉のおかげかもしれません」 宿屋の地下へ行くと、そこはもはや別世界であった。いらっしゃいませ、と媚びるような笑顔を向ける、頭にうさぎの耳を生やしたバニーガールたち。彼女らは網タイツに露出度の高い服装をしていて、正直目のやり場に困る。そして、ここには目が疲れるほど煌びやかな空間が広がっていた。そして多くの人たちが、ゲームへと興じている。 ミネアさんは半分呆れたようにため息をついていたけれど、それと反対に私とソロは、ただ唖然としていた。 「ソロ、見て! なにあれ、カードゲーム? あっちでは魔物同士も戦ってるよ!」 「うわ、あの台から金貨が沢山出てる……。なんだあれは」 私たちは呆然と辺りを見回していたが、ミネアさんは平然と歩き出した。はぐれたら大変なので、ソロと私は慌ててついて行く。 「姉が好きなのはスロットです。ですから、スロット台の近くを探せば、すぐに見つかるでしょう」 ミネアさんはこう言って振り向いたが、周りがあまりにうるさいので、聞き取るのは大変だった。こんなに人がいるのに、マーニャさんを見つけることができるのだろうか、と少し不安になった。 マーニャという女性を見つけるのは、思ったよりも簡単だった。 何故なら、ミネアさんの言う通り、スロットの前にミネアさんそっくりの女性が立っていたからだ。ミネアさんと同じく、紫の長い髪に、褐色の肌。そして何より、よく似た顔立ちをしている。 だがその格好は、ミネアさんとは大きく異なっていた。ミネアさんは落ち着いた格好をしているけれど、マーニャさんの服装は、ある意味カジノ内にいるバニーガールよりも際どかった。 ミネアさんの姉というのだから、もっと大人しそうな人かと思っていたけれど、正直想定外だった。私が人知れず面食らっていると、ソロが彼女に話しかける。 「あの……」 「話しかけないで、気が散るでしょ! ここで負けた分を取り戻して、妹のミネアをびっくりさせてやるんだから!」 だが、彼女はスロットに夢中でコインを投入している。ソロが戸惑っていると、ミネアさんが一歩前に出てきた。マーニャさんはそれでも、こちらに視線を向けようともしない。 「何? 邪魔しないでよ!」 「……姉さん、やっぱりここだったのね」 ミネアさんが低い声をかけると、マーニャさんはギクッ、と言わんばかりにゆっくりと振り向いた。その顔に、つう、と冷や汗が垂れてきている。 「んもう! 私が占いで稼いでも、全部カジノにつぎ込んで。私たち、もう一文無しよ!」 ミネアさんが怒ると、えーん、ごめんなさい、とマーニャさんは泣きついた。そんな彼女を見て、ミネアさんは呆れ顔をしている。そんな彼女らを見て、ソロと私は、お互い困ったように顔を見合わせるしかなかった。 そうしているとマーニャさんは、ようやく私たちの方に顔を向けた。やっと私たちに気がついたようだ。 「ん? こちらの方々は?」 「私たちが探していた、勇者さまであるソロさんと、その幼馴染のナマエさんよ」 「ど、どうも……」 私とソロは頭を下げる。マーニャさんはそれをどう解釈したのかはわからないが、少し考えた後、良いことを思い付いた、とでも言わんばかりに顔を輝かせた。 「わお! ちょうどいいじゃん。よーし、これから先は、勇者さまたちに養ってもらうことにしましょ。よろしくね、勇者さまたち」 「よ、よろしくお願いします……」 養ってもらうって……。ソロも困惑した顔をしている。どう反応したらいいのか、わからないのだろう。私も多分、ソロと全く同じ気持ちだ。 「二人ともあたしのことは、マーニャって呼び捨てにしてくれていいわよ。その代わりあたしも、あなたたちのこと、ソロと、ナマエって呼ばせてもらうからね。さあ、行きましょう!」 「は、はあ……」 マーニャさんが、私とソロの肩を組み始める。困った顔をしたソロと思いかけず目が合って、お互い苦笑した。ミネアさんはそんな私たちを見て、呆れたような息を吐いている。 「これから大変そうだな……」 マーニャさんは、ミネアさんと会話している時のような気まずさは感じない、気さくな人だった。それは良かったけれど、ここまで友好的な人だとは思っていなかった。こんなパーティでやっていけるのか、少し不安に思った。 だけど――ソロと私とで二人旅をするより、旅慣れているであろう彼女たちと共に旅をするのは、心強いかもしれない。まだまだ弱い私たちには力強い味方になるだろうな、とも思った。
| ミネア | マーニャ | |
|---|---|---|
| 職業 | 占い師 | 踊り子 |
| 強さ | HP:68/68 MP:56/56 | HP:70/70 MP:67/67 |
| 攻撃力:65 守備力:57 | 攻撃力:33 守備力:36 |
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| 装備品 | Eホーリーランス E鉄の鎧 Eうろこの盾 Eはねぼうし | E毒蛾のナイフ E毛皮のコート Eはねぼうし |
| 道具 | 銀のタロット 闇のランプ | かやくつぼ |
| 呪文 | ホイミ,キアリー, ラリホー,バギ, キアリク, ベホイミ | メラ,ルカニ,ギラ, ルーラ,リレミト, イオ |
| レベル | Lv.13 | Lv.13 |